以前、山本は
「俺お前のこと好きなんだよなー」
って言っていた。特になんて事ない学校の帰り道にでかいバッタがいたから捕まえていたら、脈絡もなく突然そんなことを言った。私はそのときバッタを右手で持っていたし、急だったので「あっへえ、そうなんだふーん」みたいな曖昧な事しか言えなかった。何で今?と思った。バッタはそっと逃した。


それから数日。
「うえええん私のこと好きなんじゃないんかいパーーンチ!」
「うわあああ!ちょっと待って何で俺!」
所変わって現在、私は沢田に当たり散らし泣いていた。沢田のうちにわざわざ訪れ、家の前で泣き喚いていた。
なぜかと言うと山本のクソバカ野郎のせいである。あいつはあんなこと(※冒頭参照)言って爽やかに笑っておきながら、昨日可愛い女の子に告白されて「どうしよう、すげー好みかも」と私に相談してきたのだった。目が点であった。
「何なのよもう私のこと好きなんじゃないのかよお」
「落ち着いて!まだ付き合ったわけじゃないんだよね!?」
「他人に相談するときは大体もう結論は出てんの!絶対付き合うもん、そういう顔だった!」
ぽこぽこと沢田にパンチを繰り出す。私の確かな怒りと力を込めたパンチは確実に沢田のHPを削っていく。
「イテッ、ちょ、痛いから!やめて!」
「わあああん」
「泣かないで!近所迷惑だから!」
沢田の足元でちびっ子が二人ぽかんとこっちを見ていた。やめろ!見るな!何だお前らのその無垢な目は!
「何ツナいじめてんだ?」
「その声は……山本!いいタイミングで!いやいいのか分からないけど!」
全然いいタイミングではない。私的には最低のタイミングで部活終わりの山本が現れた。ぐすんと鼻を拭う。忘れてた、沢田をいじめると山本か獄寺君がすぐ止めに来るんだった。
「山本には関係ないからあっち行って」
「山本この子嘘ついてるから!超関係あるから!」
「バカ、沢田ちょ、告げ口サイテー!」
「関係ない俺を殴るのもサイテーだよ!」
沢田が私を山本の方へ押しやる。このやろう、最近なんかちょっと生意気だぞ!前はもっとダメダメだったのに!
汗くさい格好をした汗くさい山本と目が合う。やつは目を丸くしていた。
「えっと……俺が泣かした感じ?」
困ったように、何のことか分からないと言った感じで頬をぽりぽりかいている。何その顔。何その態度。むかつく。お前が、お前があんなこと言わなければ、私は。
「そうだよバーカ!」
私は走ってその場から逃走した。うしろでなぜか沢田のうちのちびっ子が泣いている声がした。私のせいでもらい泣きさせてしまったのなら、申し訳ないなと思った。謝らんけど。


その夜山本から電話があり、無視したらメールが届いた。『今お前んちの前』バカか。窓を開けたらこっちを見て手を振る山本がいた。バカか。
「何しに来た」
「ちょっとパンチを受けにな」
バカ。
「ツナになんとかってパンチしてたんだろ?ツナのやつ、あれは俺が受けるべきだって怒ってたぜ」
「まあ確かに……」
八つ当たりしてしまったことは、悪かったと思う。沢田って当たり散らしやすいから、ついやってしまった。
山本の手が私の頭に乗せられる。何だよ、撫でるなよ。
「告白は断りました」
「……ほーん」
「まっ、もともと断るつもりだったんだけどな。ちょっと妬いてもらえるかと思ってテキトーなこと言ったら、まさか全部ツナに行くとは……」
「はあ?」
妬いてもらえるかとじゃない。目が点だった。そんなテキトーな言葉に翻弄されて泣き喚いた私がめっちゃ恥ずかしいんだけど?
「悪かったって。だからこうしてパンチ受けに来ただろ?」
「一発で済むと思うな」
「何度もしてくれて構わねえぜ。俺のこと大好きパンチ」
「そんな名前じゃない!」
バシッと山本の腹筋をグーで殴る。テキトーに解釈しやがって。もう一発、と殴りかかったが、今度は片手で拳をキャッチされた。受け止めてんじゃない!
「なあこれって脈ありだと受け取っていいんだよな?」
「知らない!」
「あっ、ちなみに今のは何パンチ?」
「教えない!」


20180123
私のこと好きって言えパンチ