「今年もクリスマスに彼氏がいない案件」
「残念だったな」
「そういう柳さんは」
「今年もクリスマスは部活案件だ」
ですよね〜〜と笑いあう。そういえば去年も同じような話をしていたな。去年はこんなに和やかに年末を迎えるムードじゃなかったけど。やはり幸村君がいないのといるのじゃ、全然違うらしい。
「ずっと合宿行ってたのに、まだ部活するの?」
「ああ」
「テニスバカ」
「褒め言葉だ」
引退しているのにどれだけ部活するんだ、と笑えば、彼は勉強の息抜きになると答えた。確かに勉強ばかりしていたら息が詰まる。
柳とは去年からの付き合いである。まあ、普通にクラスメイトだ。よくこうして、教室内で小さめの声で話をする。大きな声で笑ってる人はほとんどいない。なんせ、我らは数ヶ月後に受験を控えた、いわゆる受験生だからだ。
「私は息抜きに彼氏とクリスマスデートする予定だったんだけどな」
「去年も同じようなことを言っていたな」
「今年も彼氏できなかった……」
「非常に残念だ」
「思ってないでしょ、笑ってるし」
全然残念そうじゃない柳にパンチを繰り出すがあっけなく手のひらで拳を止められた。もう少し残念そうな顔しろ。笑うな。自分だって彼女いないくせに、余裕そうな顔しやがって。
「気になっている奴がいるんじゃなかったのか、確か野球部の……」
「野球部の結城君なら11月末にマネジと付き合い出しました」
「だろうな。9月の時点で二人が付き合う確率は85%だった」
「だろうなじゃないよ。9月の時点で何でそれ私に言わないの」
「言っても聞かないだろう、お前は」
至極冷静に返されてむっつり黙る。運動部のイケメンが軒並みマネジと付き合うの何なの。そういうもんなの。何なの。
「はあ……幸村君付き合ってくれないかな……。ね、私が告白して幸村君が付き合ってくれる確率ってどれくらいある?」
「多く見積もって6%程だろうな」
6パーは厳しいな。やはり今年もクリぼっちか……。
「もう少しレベルを落として中堅層を狙えば、お前なら彼氏の一人や二人すぐにできるだろう」
「妥協しろって言うの。この私に」
「どの位置から物を言っているのかは分からないが、まあそういうことになるな」
柳は私のボケにシビアなツッコミを返してきた。柳は比較的穏やかで頭もいいが、別に優しいというわけでもないので、このようにハッキリとツッコんでくれます。痛いとこもバンバン突いてきます。(夏休み明けにも「ふむ……3キロというところか」と私の体重について言及してきた)
「手頃なところで言うと、同じクラスの笹塚などがいいだろう」
「いいだろうって……。笹塚はスケベそうで嫌」
「それならば、二年生のバスケ部の松本は」
「年下はちょっと」
次々と名前を挙げる柳に次々と却下して行く私。アンタはネットショッピングのサイトの『この商品を買った人はこんな商品もチェックしています』か?
「ふむ、分かってはいたが、理想が高すぎるな」
「すみませんね」
「……それなら」
柳が少し考えるそぶりをする。よくもまあこんなポンポンと挙げられるものだ。やはり彼のリサーチ力は侮れない。今度女子会するのによさげなカフェも調べてもらおう。
なんてぽけっと考えていたら、ふと視線を感じた。顔を上げる。柳と目が合った。
「俺を選ぶ、という手もある」
座っていた椅子が、あやうくひっくり返るところだった。
「何を言ってんの」
「あくまで、選択肢を提案をしているだけだ」
「いやいや……」
どこまでも冷静な柳に若干引いた。クレバーすぎやしないか、柳蓮二。いやこれをクレバーと言っていいのか分からないけど。
例えば、私が彼を選んだとして、想像してみたら案外悪くなさそうで笑えた。私からしたら、だけども。
「柳の冗談って冗談に聞こえないんだからやめてよ」
「冗談のつもりはないが……」
「……待って、じゃあ私が本当に柳がいいって言ったら、彼氏になってくれるの?」
「まあそれも、やぶさかではないな」
やぶさかではないのかーい。
タイミングよく予鈴のチャイムがなった。それはまるで私たち二人を祝福をしているような……というのは言い過ぎだが、それくらい、完璧なタイミングであったのは確かだ。
20171224
「しかし、俺を選んでもクリスマスを一緒に過ごすのは無理だ。部活があるからな」
「結局クリぼっち確定」