!同棲設定


「一緒に住んでいる人はだんだん似てくるらしいですよ禊君」
『僕と君はちっとも似てない気がするけどねえ…』
「寒がりな所とかは似てるんじゃないですか?」
『ああ、それはそうか』
三月も後半。ストーブの前で団子になっている私と禊君は何だか馬鹿っぽい。禊君はわりと寒がりだ。まあ無かったことにしたとなれば話は別だけれど。
『でも多分僕の冷え性は君の料理のせいだよ。砂糖使いすぎだもん』
「何なんですか私の味付けに不満があるんですか」
『無いかなあ。僕は君の作る料理なら何だって好きだし』
「…ありがとうございます」
『あ、照れた?今照れたでしょ?照れたよね!かーわいい!』
「ウザいです禊君」
私の頬をつんつんとつつく禊君の指を叩き落とせば、彼の楽しげな笑い声が響く。石油ストーブから出る暖かい風に肌が乾燥してきた。
『わあ、おでこカサカサ』
「あなたこそ唇切れてますよ」
『えー、舐めて舐めて』
「舐めると悪化しますよ、知らないんですか」
『悪化したら無かったことにするから。ね、おねがーい』
ただ単に私に性的な行為を強要させたいだけじゃないか。溜め息を吐く。そんな恥ずかしいこと、よく言えるな。実際にやったら恥ずかしがるのは禊君なのに。彼の膝に手を置いて彼の唇に舌を這わす。
「ん、」
「!」
「うわまっず…」
血の味がする。かさついた唇を何回か舐めていると、禊君が私の肩を掴んで体を離させた。彼の顔は真っ赤になっている。やっぱり実際にやったら恥ずかしがるのは禊君じゃないか。
「も、もういい!」
「かっこ忘れてますよ」
『…何でほんとにやっちゃうかなあ、そこはふざけんなーって殴るとこでしょ』
私は禊君が好きで一緒にいるのだから、別に殴ることは無いと思うのだが。それに身体的なスキンシップよりも直情的な言葉の方が数倍は恥ずかしい。これは私と禊君の感じ方の違いなのだろうか。
「禊君がやれって言ったからやったのに怒られました…理不尽です」
『…理不尽なのは君だぜ。キス以上のことしたら怖がるくせに、すぐ僕を煽るんだから』
「禊君が勝手にムラムラしてるんじゃないですか。人のせいにしないでください」
ぷくーっと年甲斐もなく頬を膨らませる禊君に呆れつつ、目の前のストーブに視線を戻す。…まあいざ押し倒された時に泣いてしまったのは悪いと思っている。あのときはつられて禊君も号泣して収集がつかなくなったことを覚えている。いざとなるとあわてふためくところは、私と禊君の似ていることなのかもしれない。
「…一緒にいればもっと見つかりますかね」
『え?』
「私と禊君の共通点」
『…じゃああと九個、君が見つけて』
「中途半端な数字ですね」
ストーブから視線を外して禊君の横顔を見ると、やけに真面目な顔で面食らってしまった。
「十個目は僕があげるから」
…ずいぶんと回りくどいプロポーズで。

20130324
みみをかすめるさくらいろ