「買い物に行こう」
暁君が珍しくそんなことを言った。ぽかぽかと晴れた日曜日。久しぶりの秋晴れに嬉しくなって、シーツも干してしまった。日向で洗濯物を畳んでいたら、暁君がそわそわしながら寄ってきてそう言ったのだ。
いつも休みの日は溶けて動かなくなっている暁君がそんなことを言うのは珍しい。
「いいね。私もちょうど、おやつを買いに行きたいなあと思っていたの」
「おやつ……」
「暁君は何を買いに行きたいの?」
そわそわと視線をさまよわせ、何か考えているようだった。
「き、貴金属」
貴金属?


「アクセサリーが欲しいなんて、珍しいね」
暁君は基本的に身なりをあまり気にしないタイプだから珍しいなあって思った。たまに寝癖ついたまま出ていこうとするくらいの頓着具合だし。
「おお、暁君!あそこのお店はどう?ちょっと暁君がするにはゴツすぎる気もするけど……」
「そういうのではなく」
「そうだね、やっぱりもっと大人しい方がいいか」
「いや……」
やはりあれはちょっといかつすぎるかな?でも、ワイルドな感じの暁君もいいと思うんだよね。うんうん。うん……。
「暁君がおしゃれになっていくのは嬉しいけど、ちょっと心配でもあります」
「心配?」
「だって暁君モテるから」
さらにかっこよくなってしまったら、もっともっとモテてしまう。私は少し心配です。少しだけね。歩きながらそんなことを言っていると、暁君がなんだか嬉しそうな顔をした気がした。あんまり表情分からないけど。
「ここ」
「ここ?」
「うん」
「ここは……多分すっごく高いよ」
「うん」
うんって。高級アクセサリー店の前でここに入るという確固たる意思を見せる暁君にちょっとだけ困惑する。ここは多分、ものすごく高い貴金属を売ってる店だ。
「貯金はある」
「暁君の口から貯金なんて聞くのはじめてだ……」
「たくさんある」
「しかもたくさんあるんだ……」
たくさんあるだろうけれど。暁君の年俸がいくらとか、結構話題になるくらいだし。お金の話とかも普段全然しないから、意外だ。
「君を幸せにするくらいは、あると思う」
「えっ……えっ?」
「行こ」
自然な動作で手をとられた。昔は手を繋ぐだけでぎくしゃくしていたのにな。秋晴れの空と、高級アクセサリー店の立派な店構えと、やたらと汗ばんだ彼の手のひらと。どこか緊張している暁君の横顔を見つめて、ああ、と腑に落ちた。
「そっか、そっかあ」
「……」
貴金属って、指輪のことだったのか。
「……先に言ってよ!」
「ごめん」

20170920
どうしてそうも不器用なのかしら