コンビニのアイスって、特別な感じがする。値段が割高なのに、どうしても食べたくなってしまう。コンビニのアイスにはそういう不思議な力があるのだと思う。
そしてまた、私のとなりでアイスの袋を開けているこの男にも、そういう力がある。
「ほら」
「ありがと」
真田はなぜかいつも、アイスを半分くれる。一口ちょうだいとすら言ったことがないのに、毎度毎度きちんと半分私に寄越す。
アイスは好きなので、その恩恵に預かっているが、その行動の真意はつかめない。何でくれるんだろう。まあもらうけども。
「んま」
「美味い?」
「うまい、つめたい」
にかっとさわやかに笑った真田に愛想笑いを返す。アイス食ってるだけでさわやかになるの、すごい男だ。
週に一回くらい、部活終わりに真田とコンビニに寄る。時間があったら二人で少しだけ話したりしている感じだ。はじめは、たまたま帰り道が同じで、たまたまお互いコンビニに用事があったから。今ではそれが習慣となりつつある。それが私は、すこしうれしい。いや、ほんとうのことを言えば、とても、かなり、スーパーうれしい。
ちなみに、これが原因で、私たちの関係が噂になっているが、真田がどう思ってるかは知らない。
「真田さー、食べきれないならアイス買うなよ」
「いや、食おうと思えば食えるけど」
「いつも私に半分くれるじゃん」
「優しさ優しさ」
優しさだったのか。舌の上で溶けていくバニラが、妙に胸をざわつかせた。真田は私と付き合ってると噂されること、どう思ってるんだろう。聞きたいけど、聞いたら変わってしまう気がして、なかなか踏み切れない。
いやじゃないと、いいんだけどなあ。
「女子がアイス食ってんのってなんかよくねえ?」
「エロい話?」
「かわいいなって話」
ほお。
「私がアイス食べててもかわいい?」
「かわいい」
かわいいのかー。そうかー。
真田から顔を背けて、アイスを食べる。かわいいとか、そんな簡単に言うなよな。真田らしいと言えばそうなんだけど……。この男は誰にでもフレンドリーだし、他の女子にも屈託のない笑顔でかわいいとか言うんだろうな。
「私はいつでもかわいいけどね」
「言うな〜〜」
「ネタだよ突っ込んでよ」
本当は、私のことをどう思っているのか知りたい。かわいいって、どのかわいい?異性として、かわいい?
他の人よりも特別でいたいと思ってしまう。そんな自分が嫌になる。友だちなのに、私はよこしまな考えを抱いてしまっている。ただの、友だちなのになあ。
「いやでも、確かにお前はいつもかわいい」
「やめ、やめろ」
爽やかな笑い声が胸を締め付ける。かわいいって言うな。笑いかけるな。爽やかさを醸し出すな。
溶けたアイスがどろり、と手を伝って落ちた。
「うわ、やばい」
「あー、早く食わねえから」
「んんん」
「口ちっちぇもんな」
口とかそんな、見ないでほしい。恥ずかしい。見るな、と睨むと弱々しい苦笑いを返された。そんな顔するな。
するな、するな、と駄々っ子のようになってしまう。夕方なのに鳴き止まない蝉が、みんみんとうるさい。やめてくれ。ほんとに。
「あー、かわいい」


20170821
「真田、例の子とどうなん?やっぱ付き合ってんの?」
「いやあ」
「付き合ってねえの?」
「まだ口説いてるとこ」