「次浮気したら殺すって言っただろ……」
人の頭を鷲掴みにしてガンギレているのは、私の彼氏様である白河勝之くん。クールでイケメンでさらに野球もできるハイスペック彼氏です。ただし、性格にはちょっと難があります。
黒々としたオーラを放つ彼氏に私は慌てて弁解をする。
「誤解だよ、勝之くん!隣のクラスの碓井君とはライン交換しただけ……」
「この写真は」
ゲッ、あいつ勝手にインスタに上げやがったな……。口止めしといたのに!何てやつ、ネットリテラシーちゃんと学べ!
「これは、そのどうしてもこのカフェ行きたくて。確かに二人で出掛けたけど、ほんとにカフェ行っただけだし!ほらここのパンケーキすごくない?これ、どーしても食べたくてぇー」
「……」
あえて空気の読めないアホな女みたいな声を出してみたが勝之くんには通じず、殺気だった目を向けられる。もうすでに何人か殺ってる人のする目だよ勝之くん。だから勝之くんはイケメンで高スペックなのに女子に避けられるんだよ。
確かに勝之くんという彼氏がいながら別の男と二人でパンケーキ食べて、さらにツーショットの写真をインスタに上げるのはどうかと思う。どうかと思うけど、勝之くん全然構ってくれないし?練習試合練習試合の毎日だし?ライン返してくれないし?そんなガンギレしなくてもよくない?
まー今はそういうこと言いませんけどね。ほんとに殺されそうだし!
「この尻軽女……」
「碓井くんは友だちだから……いやほんとに友だち以外のなんでもないから……」
「……」
ギリギリとこめかみに彼の指が食い込む。握力半端ねえ。もしかして彼はゴリラなのかな?ってくらいの力で頭を握られる。
勝之くんはゴリラなので、一緒にパンケーキは食べてくれない。生クリームは厳禁なのである。しかしまた、私が他の男とパンケーキを食べに行くのも許さないのである。


「どう思う鳴ちゃん。勝之くんってちょっと潔癖っていうか、束縛が激しいっていうかさあ」
たまたま私たちの愛憎劇を目撃し、イヤ〜〜な顔をしていた鳴ちゃんを捕まえて愚痴をこぼす。友だちだって言ってるのに、毎回頭握り潰そうとするのどうにかならないかな。マジで。無理な角度に曲げられた首が痛い。
「勝之の性格分かってて他の男と遊ぶお前もおかしい。つーか普通に二人きりはない」
「たまたま二人だったんだよ。もともとは四人くらいで行くつもりだったし……」
「逆に勝之が他の女と遊びに行ったらどう思うわけ?」
勝之くんが……他の女の子と?
「その子可哀想だなって思う」
私の彼氏、全然話題振らないし、こっちが振っても素っ気ないし、しまいには無視とか、睨むとか普通にするからね。そういうとこマジでサイテーだと思う。
「何でお前ら付き合ってんの?」
「逆に何でだと思う?」
「体の相性」
「やーん鳴ちゃんサイテー!」


鳴ちゃんには曖昧にお茶を濁したけれど、勝之くんと付き合っててよかったなあって思うことはある。勝之くんが映ってる写真をインスタにあげると反応がいいし、野球部の知らない後輩たちはすごく気を遣ってくれるし。
「勝之くん、わたしたち別れる?」
「……」
勝之くんは別れると簡単に言うけれど、実際には別れようとしない。この人の別れるというワードは大体、離れず傍にいろという意味だと解釈している。だからあえて、今回は勝之くんの逆鱗に踏み込んでみようと思う。
不機嫌そうに自分の席でイライラしていた勝之くんをさらにイラつかせるであろう言葉をかけてみる。私の首には、保健室でもらってきた湿布が貼ってある。
「私は勝之くんのこと好きだけど。勝之くんがどーしても別れたいっていうならそれも仕方ないかなあって」
いつもは別れると言われてもそれを掘り下げずしばらく時間をおけば、なかったことになっていた。だけど、保健室の先生にデートDVを疑われたし、鳴ちゃんも、他の友だちも、私と彼の関係をよいものだとは思ってない。この際だから、勝之くんがどう出るのか見てみることにした。
「……泣かす」
「えっ、何て?」
「再来週の土曜、練習休みだから。開けられるよな……予定」
「えっなに、勝之くんが自分から予定開けろなんて珍し……ちょっと待って、さっき泣かすって言わなかった?」





「ねえ土曜日、勝之とデートだったんでしょ。仲直りできたの?」
「恐ろしい目にあった」
「は?」
鳴ちゃんがちょっと心配そうに話しかけてきた。仲直りできたか、と聞かれれば、まあできたというか。せざるを得なかったというか。
端を折って説明すると、最終的に泣きながら好きだと言わされ続けた。そりゃもう、そりゃあもう、大変な目に遭わされた。死ぬかと思った。ヤベエ男に捕まってしまった。
「インスタ映えとか気にして彼氏選んだ自分を殴りたい……」
「自分の前に勝之に殴られるよ」

20170801
舌を焼くレモン