連日の猛暑。体育はプール。美白に命をかけてる女子たちは殺人的な紫外線を憎みながら一心不乱に日焼け止めをぬっていた。どうせ水で落ちるから、そんなに意味ないよなあ。ウォータープルーフとはいえ。
そんな女子以外にも、太陽を憎らしげに見上げている大きな男子がいる。
「降谷溶けそう!」
「……」
「もう溶けてる?」
紫外線に晒されて死にそうなのは女子だけではない。暑いのが嫌いな降谷はもうすでに限界を迎えていた。お前そんな感じで、プール入って大丈夫?
普段から口数の少ない降谷だが、暑さにやられてしまっているようで、ぱくぱくと唇を動かすだけの返事を返してくる。言葉を発する元気もないらしい。
「ほら、男子もうシャワーだって。シャワー浴びたら少しは暑いのもマシになるでしょ!」
降谷はかすかに頷いて、よろよろとシャワーを浴びるため男子の集団のもとに歩いていった。小湊君の水着姿が目に入る。首から上女の子みたいだけど、首から下普通に男子だから脳が混乱するなあ。


「涼しいですかー」
「……うん」
自由時間に、ビート板を抱えてぷかぷか浮いていた降谷が私の近くまで流されてきた。ラッコか。
「ふは、首に境界線がある。ダサ!」
手首にもくっきりとある日焼けの境目に吹き出す。こうして脱ぐと、ずいぶん目立つ。運動部の宿命である。
「斎藤とかもヤバいよね。サッカー部マジで黒焦げじゃん」
少し遠くで遊んでいるサッカー部の斎藤を指差す。あいつらはマジで日焼け止め塗った方がいい。普段出してるとこ真っ黒すぎる。誰かアネッサプレゼントしてやれよ。
「私もひとのこと言えないけど。すごい半袖焼け!」
ケラケラ笑いながら、ほらと腕を降谷に見せると彼は目をしぱしぱさせる。
「眠いの?」
「眩しくて……」
「上向いて流されてるからだよ」
降谷はまた口をパクパクさせて、何か言葉にならない言葉を発していた。だから何言ってるか分かんないって。会話のエネルギーけちるなよ。
「焼けるけど気持ちいいし、体育館でマットよりはいいよね」
彼が頷く。
「女子と合同だし」
「……すけべなの?」
「……」
「えー何その無言!むっつり!意外!」
他の男子だったらキモいと切り捨てるが、相手が降谷なのでどうしたらいいか分からずとりあえず茶化しておいた。意外である。教室で堂々と猥談してる男子ならまだしも、降谷がこの発言。
「そんなにいいものかね、女子の水着は」
「女子のというか」
「うん?」
「君のが」
降谷の目がじっと私を見つめたので、たじろぐ。というか、この人、今なんて言った?君の、って私の?
夏の暑さとは別の意味で熱っぽい視線に気付いて、バッと体を両腕で隠す。私の水着をなんて目で見てるんだコイツ!?
「バカ!」
熱くなった顔をごまかすように叫ぶ。降谷ってそんなキャラだったっけ?他の女子に下ネタで絡む姿とか見たことないけど……というか女子とまともに会話が成り立ってるとこ見たことないけど……。
私がぐるぐる考えていると、降谷はまた水の流れによってすーっと流されていった。マジ何なのお前?
「おーっと、これは恋の予感か!?」
近くを通りかかった体育の先生がからかうように笑った。あんな目で見られたら嫌でも意識してしまう。そうでなくても、降谷はでかくて目立つし、野球部での活躍でも目立つし、ちょっとボケてるしズレてるから目が離せなかったというのに。
「あついねえ!」
「もう先生うるさい!」

20170728
オレンジ・サンセット