!品がない
常識的に考えて、男子から女子へのボディタッチは難しい。しかし、その逆はあっさりかなったりする。今はそんな世の中である。バンザイ!
「飯田くんってけっこうマッチョだよね!」
容姿とたがうことなくとっても真面目な飯田くんにスススッと近寄る。人懐っこい感じで話しかけると、彼も笑顔を見せてくれた。今日も真面目なメガネっぷり。すてき。
「身長も高いし、がっしりしてる」
「これでも鍛えているからな!日々の鍛練を怠れば、その分ヒーローへの道が遠ざかる」
「私もがんばらなきゃとは思うんだけど、筋肉ってなかなかつかなくて……羨ましいなあ」
ちょっとしょんぼりした感じで言うと、飯田くんは手を大きく動かしながら女性のからだのつくりと男性のからだのつくりは違う、とフォローしてくれた。ああっ、めちゃめちゃいい人!
「あのさ、参考までにちょっとだけ筋肉触らせてもらえないかな?」
「僕のを!?」
「単純に人間のからだの作りに興味もあって……やっぱりだめかなあ?」
ひかえめに見上げて首をかしげる。こういうぶりっ子が効く相手ではないとは分かっているが、まあやらないよりはいいだろう。女子にこういうポーズをとられると、男子は断りにくい。特にスケベなやつ!
「それは、少し恥ずかしいのだが……」
飯田くんは戸惑っている。触られるのが恥ずかしいって、一般的にはみんなそうなはずなのに、なんか飯田くんが言うと非常にかわいい。
というか、もう飯田くん自体が非常にかわいい。カミングアウトしよう。私はぶっちゃけ彼を性的な目で見ている!!
「やっぱりイヤ……だよね……」
「いっ、いや!」
「そうだよね……」
「いや、今のいやはその嫌ではなく!少々恥ずかしいが、君の学習のためなら、その、受け入れよう」
「えっ、いいの?」
「かまわない。触ってくれ!」
飯田くん……!クラスメイトの学びのために体を張ってくれる委員長の鑑みたいな男である。ちょっとチョロいのが心配になるけど、ありがてえ!堪能させてもらおう!
「ありがとう!じゃあ、ちょっと失礼して」
「ああ!」
さわさわと、上腕二頭筋を撫でる。はあ……いい……!ちょっと恥ずかしそうに、でもおとなしく触られてる飯田くん……かわいい……もっと恥ずかしがらせたい……!
「腹筋もすごいねえ……」
「そっ、そうだろうか」
「かたぁい、あっ、割れてる」
「その!あまり変な風に撫でるのは……!」
指先で優しくなぞったり、つついたりと、あえて性的に触っていると、彼が困惑した声を出す。ふふふ、困ってる。かわいい。はあ……何?なんでこんなかわいいの?辛い……かわいすぎて辛い……。
「ごめんね、いやだった?」
「嫌ではないが、なんか、こう、変な感じだった気が」
「お詫びに私も触っていいよ!」
「ど、どういうお詫びの仕方なんだ……遠慮しておく!」
「どこでも、好きなだけ触っていいのに」
「何を言ってるんだ君は!?」
ここで簡単に乗ってこないとこがイイ。堅物で真面目でメガネで本当にすてき。
「飯田くんは、私のからだには興味ない?」
「そういう問題ではないだろう!?よっ、嫁入り前の女性が軽々しくそういうことを言うのは感心しな……」
「えい」
ぎゅっと彼の腕に抱き着くと、飯田くんがフリーズした。フリーズした!かわいい!八百万ちゃんほどは大きくないけど、それなりと自負している胸で彼の腕を挟んで押し付ける形をとれば、頭から煙が出始める。ショートしてる!かわいい!
「私、もっと色々知りたいなあ、飯田くんのこと。すみからすみま……」
ゴッ。
「いだーい!」
「飯田で遊ぶな」
「うわあ先生!」
頭に急に重たい岩かなんかが降ってきたと思ったら、イレイザーヘッド先生の鉄拳だった。いだあっ!先生容赦なし!離れろ、と言われ、しぶしぶ飯田くんから離れる。チッ……教師め……。
「女だからってセクハラが容認されると思うな」
「やだな、ただのスキンシップですよ。健全な!」
「どこが健全なんだ」
先生の目が怖いので、今日のところはおしまいにするけど、次はもっと先まで……そう、プルスウルトラ……!
20170612
ハウ・トゥー・ダッシュ