映画観て、ご飯食べて、買い物して……まるでデートのような一日を過ごしてしまった。プリントとノートのコピーは鞄の中にある。どういうことだ……。本当にただ私と遊びたかったのか?小湊君が?なんで?
暗くなってきたからもう解散しよう、と提案すると、普通に小湊君が送ってくれる流れとなった。手厚い……。あやしい……。
「楽しかった?」
「そりゃもう……」
「そう、よかった」
その笑顔が怖いんだって、とは言えずに私も曖昧な笑みを返す。そんな私とは対照的に小湊君の機嫌はすこぶるよさそうである。
「こみなとくん」
「何?」
「その……悪いものでも食べた?」
「バカにしてる?」
「そんなつもりはないんだけど……」
変だ。怖さが一周回って心配になる。今日のデートがプリントとノートの対価になるとは思えない。なんかいつもより私に優しいし!おごってくれるし!絶対に変だ!
「今日のって、その、なんなのかなあって」
「デートだけど」
「うん、それは察してたんだけど……なぜかなあって」
「気分」
「きぶん」
気分ってそんな、そんなことある?いや、でも、小湊君も男だし、たわむれに婦女子とデートしたい気分のときだってあるかも。知らないけど。
あたりはすっかり暗くなっていて、電灯が灯る帰路を二人で歩く。
「俺がそういう気分になったらダメなわけ?」
「滅相もございません」
何にせよ、プリントとノートのコピーを受け取った以上、私には拒否権はない。これがただの気分で、本当にデートしたかっただけならありがたいことじゃないか。映画も観れたし、楽しかったし。前向きに考えていると、左手を掬い上げられた。おっふ……。
「……これも気分?」
「さあね」
つながった手のひら、からまった指。なんで小湊くん、私の手握ってるんだろう。デートだから?デートっぽいことしたいって気分なのかな。どうかな。分かんないな。
「私のこと困らせて楽しんでる?」
「被害妄想」
「どうだか……」
変な汗出てきた。この前からずっと、小湊君の目的、真意を知りたくて、彼のことばかり考えている。もしかして、私に思い悩ませることが目的なのか?精神攻撃?
手のひらから伝わる体温に力が抜けてしまう。むずむずする。私まで変になってしまう。
「でもそうだな」
「……」
「これで、足りると思うなよ」
つながった手を掲げられる。『亮介に頼りすぎると、後悔するぞ』という伊佐敷君の言葉を思い出す。なんかもう、後悔とかそんなこと言ってられないところに来てしまった気がする。完全に小湊君の手中に収まっている気が……。どうしよう、伊佐敷君。おしえて、伊佐敷君。
20170408
「あ、純と連絡とるの禁止」
「なぜ……」
「俺を口実に近付かれたらたまらないからね」
「なぜだ……」