『13時に駅前』とだけ書かれた簡単なLINEのメッセージを睨み付ける。あやしい。
お前あれ観たがってたろって言われて提案されたのは、流行りのイケメン俳優が出てくる恋愛映画で。明らかに小湊君の趣味じゃないのに、それ観に行こうよとか言われて。時間指定されて。やっぱこれデート……?それともデートと見せかけた何か?
「……分からない」
スマホの画面を見つめても、思い浮かぶのはあの憎たらしい笑顔だけ。悔しい気持ちで画面を閉じる。からかわれてるのだろうか。ああ、もう。
「どんな格好しよう……」




「時間ぴったりだね」
「小湊君こそ……」
色んなことを考えすぎて若干寝不足に陥ったが、約束の時間に遅刻することはなかった。小湊君待たせるとか、あとが怖すぎるし。
スニーカーの爪先を見つめる。結局、大学ではあまりはかないスカートを選んでしまった。へ、変に思われてないだろうか。
「かわいいじゃん」
「へあっ」
「何その間抜けな声」
小湊君って、こういうこと言うタイプのやつだったっけ?記憶している限り、そんなことは一切なかったはずだ。変だ。私じゃなくて、小湊君が!
「ほら、行くよ」
「へあ……」




じゅーーーー。
ストローでカフェオレを吸い上げながら、小湊君を眺める。映画のチケットはなぜか彼が買ってくれた。内容は、まあ、お察しの通りであって、小湊君の好みには合わなかったらしい。面白くなさそうにスクリーンを眺めてた小湊君の横顔が印象的だった。
「あんまり面白くなかった?」
「え?」
「映画」
「そんなことないよ」
「そのわりには俺の顔ばっかり見てたような気がしたけど?」
「それは、小湊君が……」
上手く言えなくて視線を下げる。目的が見えなくて、怖い。なんか普通にデートみたいに思えるし、かわいいとか言うし。小湊君が何かに向かってかわいいとか言うの、はじめて聞いたよ。
小湊君はクスッと笑って、鞄からファイルとノートを取り出した。
「これ、お望みの授業プリントとノート」
「あ、うん……」
「コピーでもなんでもしてくれて構わないから」
「……」
目の前に出されたあからさまなエサに飛び付きたくなる。でも、あやしい。あやしすぎる。見返りが何もないはずない。私は知ってる。小湊君は、オムハヤシだけで済む男じゃない!
「何?いらないの?」
「あ、ありがたく頂戴させて頂きます……」
怖い!その笑顔の裏にあるものは何だ!