!くだらない
「どうだ、お前ら!」
練習漬けでこの夏どこにも行けてない高校生男子野球部のために、監督に頼まれて、学校のプールを借りました!(水泳部の休養日)
「夏の気分も味わえて、体力作りにもなる!まさに一石二鳥!」
「私という華もありますしね!ね!監督!」
「おうよ、マネージャーはなんとビキニだ。喜べ男ども!」
監督が豪快に笑う。喜べ!
「パーカー着てんじゃねえかよ!」
三島を筆頭に何人からぶーぶー文句が上がる。脱げ!という声をかわしながら、話についていけずきょろきょろしてる雷市に水鉄砲を噴射する。てめーは少しは興味をもて!私に!
「女子高生の肌がただで拝めると思うなよ!泳げー!死ぬほど泳げー!」
水鉄砲を野郎共に浴びせかけて、プールサイドからプールのなかに追いやる。監督はまだがははと笑っている。ちなみに、このあとまた死ぬほどバットを振らされることを彼らは知らない。アーメン。
「で、お前、どんな水着着てんの?」
「セクハラで訴えますよ監督」
「キビシー!」
「おーい、マネージャー」
「なに?」
「雷市ギブっぽい」
「……カナヅチはこれだから!」
野球以外はそこそこ何もできない雷市が死んだ。監督は日陰で寝た。轟親子はもう本当に……!
プールからあがってきた真田君が親指で、伸びている雷市を指差す。
「ちょっと誰か雷市を日陰に転がしといて!こんなとこで熱中症になられたら困る!おい三島!聞け!」
「なんでオレ!」
「センパイにタメ口きくな!さっさと動け!」
三島が文句を垂れる。生意気な!雷市も敬語危ないけど、お前は堂々とタメ口聞きやがって。私はセンパイだぞ!
「真田君はプールに戻って。死ぬほど泳いで」
「ははっ、俺もう死にそうなんだけど」
「軽口が言えるうちはまだいける。甘えんな」
「うちのマネージャー厳しい〜〜」
「今は監督代理だもん」
監督が寝てるときは私が代理!文句は言わせない!
びっと指を突き立てると、真田君が意味深に笑う。?、なんだその顔。
「じゃーもうひと頑張りしてきますか」
「そうして」
「その前に」
「は?」
「燃料もらわねーと」
真田君がにこりと爽やかに笑って私の肩に手をかける。は?
なんだお前離せ、と口を開く前に、真田君の手が私のパーカーのチャックにかかる。ジャッと勢いよくチャックが下ろされた。
「は、」
「あ、本当にビキニ」
「……」
「ほお……黒」
私の水着をまじまじと見たあと、いくつか感想を言って、またパーカーのチャックを上げていく。じと、と睨むと彼は丁寧に手を合わせて、ごちそうさまでしたと言った。バカか。
「激アツ」
そしてキメ顔をする。
「言うと思った!バーカ!溺れ死ね!」
「いやだってせっかく着てるんだから見ないと失礼だろ?」
「バーカ!!!!!」
真田君ほんとそういうとこある。けど爽やかすぎてなんか許せてしまう!これ監督とか三島だったら即アッパーだった!
「真田センパイぐっしょぶ……」
「俺らにはできないことをやってのける……」
「そこにしびれる憧れる……」
「ほら見ろ!童貞どもにいらん燃料与えた!あ、おい、鼻血止めろ三島ァ!」
女の水着なんて野球修行僧どもには刺激が強いだろうと思ってわざわざパーカー着てやってたのに!
「いや〜〜うちのマネージャーは顔もかわいくてスタイルもいいな」
「な、なに急に……えっ、そう?」
「この白い足が日に焼けたら大変だし、あっちで休憩しようぜ」
「も、も〜〜ちょっと……」
真田君に肩を抱かれてまんざらでもない感じになる。なぜならイケメンなんだから。爽やか。イケメン。もう、なんか、好き。普通に好き。……ハッ!まずい!
「って、サボらせるかバカ!!あぶねー!」
「あとちょいだったのに」
「このやろっ、真田君!いい加減にしないと怒るよ!」
「怒った顔もかわいいぜ」
「口説くな!」
私だって年頃の女の子なのだから、イケメンの一人や二人に揺らぐこともある。すべては若さのせいなのである。いつの間にか目を覚ました雷市が元気にプールで泳いでいる(溺れている)。ああ、眩しい。
「今度は俺と海でもどうよ」
「今年は無理よ」
「試合あるもんなあ」
「カハハハ!シアイ!」
「雷市うるさい」
水飲むからプールの中で騒ぐな!あ、こら、秋葉!平泳ぎで楽しようとするな!クロールしろ!
20160712
いつか誰も知らないような