!品がない
「今日こそは出水に勝つ!」
「その台詞もう100回は聞いた」
「100回も言ってない!ウソつくな!」
へーへー、とテキトーな返事をする出水にムカッと来たけれど、今日はいつもの私とは違うのだ。今日の私には秘策がある!
「さっさと始めようぜ」
「一本勝負だよ!負けたらジュースおごり!」
「いいぜ、メシでもなんでも奢ってやるよ、お前が勝てたらな」
私と出水公平はいわゆる同級生であり、職場の同僚である。しかも同じような時期にボーダーに入った。しかしお互いがC級の時もB級の時も、そしてA級に上がった今も、私は一度も出水に勝てたことがない。しかも出水はそれを小バカにしてくる。腹立たしいことこの上ない。いくらA級一位の部隊所属だからって……ナメやがって……。
私は今日こそ出水に勝って、その高い鼻っ柱を折ってやるのだ!
「……トリガーオン!」
いつまでもジュースおごらされてると思うなよ!
「なっ、……なんだよ!?お前その格好!?」
「あっはっはっ!驚いたか!」
「驚くっつーか……!何で水着!?」
「スケベな出水対策に技術室に開発してもらった、トリオン体バージョンビキニだよ!」
「おま……お前な!」
「監修は太刀川さんだ!!」
「あー!もう!何やってんのウチの隊長!」
頭を抱える出水に構わず戦闘をはじめる。思った通り、いつもよりスキがある!やったー!作戦成功してる!体張ってよかった!
「あっ、あんま動くなよ!脱げるぞ!」
「トリオン体だから脱げないし!」
「いやもうほぼ脱げてるからな!俺の脳内で!」
「それはただ単にテメーがスケベなだけだろーが!」
トリオン体だから脱げることはないけれど、やっぱり動くとそれなりに際どい体勢にもなるわけで、出水はやりにくそうだった。これは……いけそうだぞ……。童貞男子高校生にはお色気作戦がいいと進言してくれた太刀川さんに感謝する。聞いた時はこの人バカなんじゃねーの?と思ったけれど、男子高校生も基本バカな生き物でした。ありがとう、太刀川さん。
「つーかこれ、モニターで他の奴にも見られてんじゃ……」
「だからどうした」
「お前俺に勝つために体張りすぎだろ……!」
「だって勝ちたいんだもん!」
「うわっ!こっち来んな!」
慌てる出水に弧月で一撃。今日はいつものアステロイドのシャワーも冴えない。あははは!何だこいつウブか! 私ごときのビキニでそんな狼狽えるとか!……もし遠征の時に裸の女の人(手練れ)が襲ってきたらどうすんだろう。ちょっと逆に心配になってきた。い、いや!今はそんなこと考えず、この男に勝つことだけに集中しよう!
「スキだらけだね、出水!」
「クッソ……覚えとけよお前」
孤月を振り回しながら出水に迫る。いつもなら避けられる攻撃が当たって、ヤツからトリオンが漏れる。腹部をやったのが効いたのか、ピシピシとトリオン体にヒビが入っていく。
『出水、ベイルアウト』
「やったー!勝ったー!初めて勝ったー!」
「あれはルール違反だ、俺はあんなの認めない」
「いや私の作戦勝ちでしょ!?認めろよ!」
「ぜってー認めねー」
「な、なんて往生際の悪い……!」
出水におごらせたジュースを飲みながら、口論する。ジュースおごった時点で負けを認めてるようなもんだろ!何で認めないとか言うんだ!
「それから、あの格好で戦うの禁止。いいな」
「何でそんなこと出水に禁止されなきゃいけないの!やだよ!」
「ボーダーの品位が下がる」
「あれで防衛任務はいかないもん!」
「ったりまえだろ、ハチの巣にされてーのか?あ?」
「凄んだってムダだよ!今日は私の勝ちだ!」
イライラした様子の出水は脳天に手刀を落としてきた。しかも何度も。やめろ!痛い!生身の時に攻撃すんのは卑怯だ!
「クソ、おっぱい盛ってたくせに……」
「なぁ!?も、ももも盛ってないわ!」
「ウソつくの下手か」
バッと胸を手で隠すように押さえる。1カップしか盛ってないのに、何でバレたんだ!?
「ああいうの、もう絶対やめろよ。絶対だぞ」
「嫌だ!」
「オカズにされてえのかお前は!」
「しっ、したいならすればいいよ!」
「いや俺じゃなくて!……他のヤツにされるかもしれねえからやめろって言ってんの」
「だからしたいならすればいいって」
別に襲われたりしなければ、それくらい……いやちょっとは嫌だけども。なんて考えていたら、出水に肩をガッと掴まれた。お、おう……なんだよビックリしたな……ジュースちょっとこぼれたんですけど。
「あーもうクソ、嫌なんだよ!俺が!」
「はあ?」
「俺が!嫌なの!……っんで分かんねーかな」
「な、なぜ出水が嫌がる……私のことなのに」
「お前のことだからに決まってんだろ」
「……は、はあ」
私のことだからってどういうことだ。な、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。出水怒ってるし、変なこと言うし……なんかいつもと違うような。あ、あれ?
「……トリオン体の設定戻してこい。もっかい模擬戦するぞ」
「ちょ、やだよ、普通のじゃ勝てないし……!」
「勝てなくていいんだよ」
「嫌だよ!!」
勝つために色々と試行錯誤してこれに辿り着いたんだから、そう簡単に戻してたまるか!それなのに出水の目が恐ろしく座っているせいで、流されてしまいそうになる。チクショー、何だってんだ!
「ちなみに、次俺が勝ったら、お前俺のカノジョな」
「は、はあああ!?」
そして普通に負けて、晴れて出水公平のカノジョになりました。
「出水に一勝したんだって?俺のおかげだな〜」
「……太刀川さんのせいで一勝よりも大事なものが色々と奪われた!」
「えっ、何怒ってんの」
「もう太刀川さんには頼らない!太刀川さんのアホ!単位落とせ!」
「お、おい、何で泣くの、俺が泣かせたみたいになってっからやめて」
「うわああああん、たぢがわざんの、ばかああ」
「あー!太刀川さん!何俺のカノジョ泣かせてんスか!」
「え、えーーー?」
20150902
恋と戦争は手段を選ばず