み、見られている……。
「な、なにかな」
何でこんなに見られているのか分からない。とても居心地が悪い。こわい。
しかも相手が相手だ。本当はロボットだとか、神がかったテニスの腕前を持つとか、A以外は許さないとか、何かと噂の難波江君。こわい。本人はそこそこ寡黙な人で、そういう噂を否定しないから真実が分からなくてこわい。
クラスメイトだけれど、接点なんてほとんどないし……。たまたま同じ係なだけだ。
「君は、僕の前ではあんまり笑わないんだね」
「わ、わらう……?」
先生に頼まれた授業で使う資料を二人で運ぶのはいいんだけど、まさかここまで難波江君に見つめられるとは思ってなかったし、笑顔を要求されるとも思ってなかった。なんでこの人私に興味を持ってるんだろう……。何かしたかな、私……。
この状況で難波江君に穴が空くほど見つめられてヘラヘラしていられるほど、私のメンタルは強くない。たいして仲良くもないし、面白いこともないし。
「わ、笑ったほうがいい?」
「うん」
「(えーーーー!!!!!)」
無理だろ、ふつうに考えてー!!!なにを考えてるのか全然分からない……難波江君こわい……。泣きそう。
「出来れば、友だちと笑ってるみたいな顔で笑ってくれないかな」
しかも注文つけてきたー!!!泣きそうになりながらヘラッと笑うと、難波江君の眉が少し寄った。だ、だめ!?これだめ!?
「な、なばえくんは、何で私に笑ってほしいの?」
「好きだからだけど」
「えーーーー!!!!」
えーーーー!!!!!
難波江君わたしのこと好きなの!?うそでしょ!?接点ほぼ0なのに!?か、からかわれてるのか……?
思わず彼の顔をじっと見つめてみたけど、びっくりするほど真顔で彼の真意はまったく分からなかった。か、からかってるのか、本気なのか……。1から100までぜんぶ分からない……。
「ああ、でも僕は今は恋人は作らないって決めてるんだ、ごめんね」
「あ、はい」
そしてフラれたーーー!!!なんだコレ!?本当なんだコレ!?
勝手に告白して、勝手にフッてったんだけどこの人!?ていうかまだ本当に私のこと好きなのか分からないし……別の話題だった可能性もなきにしもあらずだ。なんたって相手はミスター謎、難波江君だ。疑ってかからなきゃ……。
「僕は将来プロになるつもりなんだけど」
「ぷ、ぷろ……?って、テニスの?」
「そう」
「へえ……すごいね……」
「その時、隣で君が笑ってたらいいなと思って」
「へえ!?」
「これって多分、君のことが好きってことだよね」
さっきから私驚きすぎて変な声ばっかりあげてるんだけど。じっと見てた難波江君が少しだけ笑って、それから、ふっと顔を逸らした。少しだけ、ほんとーに少しだけ、顔が赤いような気もする。
「……」
「……」
「何か、言ってくれないかな」
「えっ!?あ、えっと、うん、えーーと、す、ステキな未来図だね……?」
「それはつまり、実現のために協力してくれるということでいいの?」
「ええっ!?」
協力!?協力って一体何したらいいんだ!?そもそも私は難波江君のこと別に好きじゃないし、どうしたらいいんだろう……。告白はされたけど、付き合えないってはっきり言われてるし……。
「……しばらくは、お互いのことを知ることが必要そうだね」
「そ、そうだね!私、難波江君のこと全然知らないし!」
「多分、君が思ってるほど僕は特殊な人間じゃないから、そんなに焦らなくてもいいよ」
うわあ、恥ずかしい、見透かされてる。まあ目に見えて汗ドバドバかいてるし、どもりまくってるし、当たり前と言われればそうなのだけど、やさしく諭されると羞恥心が……。
「君がそばにいたいと思うような人になれるよう、努力する」
なんで彼が私みたいな特に取り柄もない女にこんなことを言ってくれてるのかまったく分からないし、ちょっと、いやかなりこわいけれど、悪い気はしない。こんな斬新な告白をされたのもはじめてだし、その手を取ってみるのも悪くないと、思ってみたりして。

20150506
よく聞け諸君、恋とはなんだね