「ああ、ちょうどよかった。悪いけど頼まれてくれないかな?」

遠征から帰ってすぐに、本丸で待機していたはずの燭台切に捕まった。いつ見ても、ニヤニヤと気味が悪いくらいに笑っているそいつに、妙に嫌な予感を覚えた。
「ああ?俺今忙しいんだわ。報告行かなきゃなんねーし」
「うん、だから報告のついでにね」
「はあ?」
「主が元気ないみたいだからって、他の子たちがお団子買ってきてくれたんだ。持ってってあげてくれない?」
「何で俺が……」
「ついでだよ、ついで」
どうせ今から主のとこ行くんでしょ?と、こっちの話はまったく聞こうとしねえ燭台切に団子を渡された。だから、何で俺がこんなもん持ってかなきゃなんねえんだ。
「何かグズグズ言ってたら、とりあえず優しい言葉をかけてあげてね。あの人ナイーブだから」
「そういうのは俺がやることじゃねえだろ!チビ共にやらせろ!」
「たまには君も主に優しくしなきゃね」
「意味が分からねえ!」
だから俺たちは刀で、っていつも言ってんのにどいつもこいつも話を聞きゃしねえ。どんだけ人間の真似事すりゃあ気が済むんだ。
燭台切に背中を押されて、ズルズルと廊下を進む。クソッ、コイツ、すげえ力強いじゃねえか……。



「おい、遠征の報告に来た。入るぞ」
「同田貫……?どうぞ」
了承を得てから障子を開けると、なぜか中の空気が淀んでいて、思わず息がうっと詰まった。文机で書き物をしている俺たちの持ち主は、やけにやつれた顔をしている。何があった。
「おつかれさま。みんな、怪我はなかった?」
「お、おう……拾った資材はあっちに置いてある」
「ありがとう」
「あと…これ」
「……」
「団子だ」
「えっ、み、土産をわざわざ買ってきてくれたの?同田貫が?」
「ちげえ!さっきそこで燭台切に渡されたんだよ。なんかアンタが元気ねえみてえだから持ってけって」
「あ……気を遣わせちゃったかな」
「そう思うならそのジメジメしたやつしまえ!鬱陶しい」
「うん……」
できねえんなら頷くな。
「あ、ごめんね、お茶いれるね。気が利かない審神者でごめん……」
泣くな。
「だぁーっクソ!俺がいれるからアンタは動くな!」
「えっ!?」
「団子食う準備でもしてろ」
「同田貫、お茶なんていれられたの?」
「これに湯いれるだけだろ、そんくらいなら俺にもできる。ナメてんのか」
「ご、ごめん……」
「泣くな!」
まったく、調子が狂う。
何で人間っつーのは、くるくるくるくる表情や雰囲気を変えるんだ。めんどくせえ。
「オラ、湯呑み出せ」
「ああ、うん、はい」
「不味くても文句言うなよ!」
「言わないよ」
「……」
「ありがとう、気遣ってくれて」
「……」
「うれし、」
「うるせえ!もういいから、団子食っとけ!」
「むぐっ」
ほら、泣いたと思ったら、もう笑ってやがる。何なんだお前は。ヤツから団子を奪って、それを口に突っ込んだ。
顔色がひでえことになってる。目の下にはクマもある。無理すると人間は死ぬんだぞ、知らねえのか。
「ちゃんと食え、ちゃんと寝ろ、ちゃんと休め。お前に体調崩されっと俺らが困るんだよ」
「ふぁい」
「あと、茶、冷める前に飲め」
「うん、一緒にたべよう」
「……マジでしっかりしてくれよ、主人さんよォ」
へにゃっと、崩れるみたいに笑った顔を見せられて、頭の後ろをガリガリとかく。この人を相手に取ると、どうもこっちばかりが焦っているような気になってくる。苦手なのに、ほっとけもしない。厄介だ。厄介だが、悪くもねえと思ってる自分もいる。俺は刀で、武器だ。人間じゃねえ。なのに、何でこんな感情みてえなもんを背負わされてんだ。
「お茶、美味しい」
「……そうかよ」


20150219
最近人間らしくなりました