「トリオン体だから、ノーカン!」
今日は占いが最下位だった。そのせいか、近所の犬に吠えられるし、すれ違った迅さんにお尻触られるし、米屋に捕まってムリやり模擬戦やらされるし、散々だ。そのストレスをぶつけるように思いっきり派手に戦う。
「あいっかわらず速いな!」
「そりゃどーも!」
アステロイドを連射しながら、スコーピオンで致命傷を狙って攻撃する。私はいわゆる、超攻撃型だ。守りに転じたら、その瞬間負ける。だからひたすら攻撃するしかない。
私の弾が米屋の頬をかすめる。その少しの隙が命取り、ってね。
「チッ」
「もらった!」
膝から出したスコーピオンで回し蹴りを入れ、そのまま体勢をかえて何発かアステロイドを撃ちこんだ。勝負は決まったようなもんだ、と思ったのに。
「タダでやられるかよ」
米屋がマトリックスかよ、みたいな体勢で弾丸を避けたあと、短かくした槍をこっちに突き出す。往生際の悪い!
「ちょ、っ!?」
「へへっ!」
接近戦で体勢を崩されるときつい。特に、私みたいな攻撃型は。最悪!今日の占いの結果が頭をよぎって舌打ちをした。
「〜〜っクソ!」
「口悪いぜ?」
「うるっさい!」
スコーピオンは防御にはむかない。銃身で槍をいなしながら、後ずさる。半歩下がり、距離を取ろうとしたのがバレたのか、すばやく足を払われぐらりと体が傾いた。
「きゃっ、」
「うおっ!」
しかし、倒れ方が悪かったのか、米屋にダイブする形になってしまった。やつはやつで予想外だったらしく、攻撃するでもなく一緒に倒れる。とっさにくっついてる胸のあたりからスコーピオンを出して、米屋の心臓を貫いたから、勝負は私の勝ちだ。
「!?」
「んっ!?」
それは、よかったのだけど。
問題は倒れたあとに、唇が塞がっていたことである。よりにもよって、米屋の唇で。これは、あれ、キスじゃないか!?
「何、してんの、バカ!」
「いやこっちの台詞」
そして、冒頭に戻る。
「あーもう!痛覚OFFにしとけばよかった!」
「まあまあ」
「まあまあじゃない!何でアンタはそんな飄々としてるわけ?」
「えーだって事故みたいなもんじゃん」
「そ、そうだけど……」
事故とはいえ、あれが私のファーストキスだなんて笑えない。トリオン体だから実際にはしてないけど、感触はきちんとあるわけで。
訓練室から出て、ミネラルウォーターを飲みながら米屋とそんな話をする。最悪だ。いつもは美味しい体を動かした後のミネラルウォーターの味が、まったく感じられない。
「もしかして、初めて?」
「……」
「へええ」
「何か文句ある?」
「べっつにー」
米屋は米屋で炭酸を飲みながらニヤニヤしている。よくそんな喉が乾きそうなのが飲めるな。というか、何ニヤニヤしてるんだ。アンタだって、そんなに経験ないでしょ。……知らないけど。
「まあ、俺としては?トリオン体じゃない方の初めても欲しいわけですが」
「……はあ?」
「うん、だからこういうこと」
口をつけていたミネラルウォーターがとりあげられ、その代わりに米屋の唇で塞がれる。この感触は本日二度目である。
「いやー、今日はツいてるわ」
20150125
箱入りアイス争奪戦