「……」
「……」
「……」
「…さすがに、疲れましたか?」
飛行機はきらいだ。肩がこるから。
「そう見えますか?」
「いいえ」
「…何でか、疲れは感じてないんですよね」
「若いですねえ」
「小林さんおじさんみたい」
「もう私なんておじさんですよ」
小林さんは若くてなんでも出来るお兄さんだ。苦労性の。にしても、
「あー、あのジジイ…いつか絶対ギャフンと言わせてやる……」
「まだ言ってるんですか」
「だって!」
それはもう酷いものだった。メゾピアノもピアノもデクレシェンドも無視。ずうっと、ひたすらフォルティッシモ。
あのジジイは、私に喧嘩をふっかけてきやがったのだ。
「ほんともうあの老いぼれ、次あったらけちょんけちょんにしてやる……」
「素人目から見れば、ただただ、圧巻の演奏でしたけど」
「小林さんは何にもわかってない!」
「はあ」
「あんな演奏!……まあ私に技術が無いのが、悪いんですけど」
「…そうなんですか?」
完全に向こうのペースだった。思うように弾かせてもらえなかった。
「悔しい〜〜…」
「はは、」
「な、なんで笑うんですか!?」
「何か、音楽家って変だなあと思いまして」
「変!?」
「すてきな演奏でしたよ。いつもと変わらない、素晴らしい演奏でした」
「え、え〜〜?」
小林さんは大人びた笑みを浮かべる。よく分からない……。
「何はともあれ、お疲れ様でした」
「はい!」
「楽しかったですか?」
「…はい!」
「間がありましたけど」
「学ぶことは、たくさんありました」
「そうですか」
「…もっと、上手くなりたいです」
「そうですか」
「思うように、弾けるようになりたいです」
「そうですか」
「あんなジジイに呑まれたくないです」
「失礼ですよ」
もうすぐ、日本だ。