たまにボランティアで病院や幼稚園に行って、ピアノを弾く。私の演奏で誰かが元気になるなら、いくらでも弾きたい。
「おねえちゃん、ピアノじょうずだね!」
「そうでしょ〜おねえちゃんすごいでしょ〜」
「でもブスじゃん」
「何だとクソガキ」
「みょうじさーん、言葉遣い気をつけてねー」
「すんません」
ナースさんに怒られた。病院でもどこでも、子どもたちは元気だ。
「じゃあおねえちゃん帰りますわ」
「えーもう!?もっとあそぼうよ」
「おねえちゃんはもう疲れました。また来るよ」
「ババアかよ!」
「お前はさっきから生意気だな……」
「うるせーババア!」
「ババアじゃない、女子高生だよ!ピチピチだよ!」
立ち上がると、子どもたちに群がられる。なぜか子どもにはモテるんだよな…昔から。
「ほら、おねえさん帰るんだから、みんな離れて?」
「えー!」
「また来るから、今日はバイバイしようね」
「こんどは妖怪ウォッチ弾いてね!ぜったい!」
「わかったわかった、何でも弾いてあげる」
子どもたちにバイバイと手を振りながら病室を後にする。
「みょうじ」
「ひいっ!?えっ!?あれ、こんばんは!?」
「とりあえず静かに」
「すすすみません!…あ、すみません……」
クリス先輩に会った。なぜここに先輩が!?
「この前は急に話しかけてすまなかった」
「い、いえ、びっくりしましたけど……私のこと知ってるんですか?」
「御幸と一緒にいるのをよく見ているし、話も何度か聞いている」
「えっ、え〜〜〜〜なんか恥ずかしい」
「病院で会うとは思わなかったが」
「あ、たまにここでピアノ弾いてるんです。ボランティア?みたいな……」
「そうか」
クリス先輩は?とか聞きたいけど、聞いてもいいのだろうか…どうしよう重い病気とかだったら。
「さ、寒いですね〜、もう真っ暗だし。クリス先輩は寮ですよね?」
「ああ…」
「よ、よかったら、一緒に帰りませんか。寮まで」
「べつに構わないが、」
ピロリーン。私の携帯である。誰だよ、こんな大事な時に!くそ!
「すみません、ちょっと失礼します」
「ああ」
さっと携帯をとりだし、スライドして通話状態にする。
『あ、もしもし小林です。今病院着きました。もうすぐ終わりますか?』
「小林さんよく聞いて、予定変更です。私は寮まで歩く」
『でも、今日はお父様が早くお帰りになっていますよ。いつものように、会えるのを心待ちにしていらっしゃいます」
「えっ!?お父さん!?どこまでもタイミングの悪い……」
『とにかく、急いでください』
「え、あ、もう…!うううううわかった!」
勢いよく電話を切る。小林さん(運転手)からの電話はいつもタイミングがばっちり良いか悪いかのどちらかである。
「すみません……やっぱり帰ります。なんか迎えに来てくれてるみたいなので」
「そうか」
「すみません……」
「何も泣かなくてもいいだろう」
「情緒不安定ですみません……」
「……今度また、ピアノを聴きたい」
「!」
「いいだろうか」
「は、はい!よろこんで!」