トイレから帰ってきたら、御幸と倉持君が談笑していた。
「(えりあし……)」
長くてちょっと跳ねてる。私の席に背を向けるように座っている御幸のえりあしに触れる。
「お、何?」
「跳ねてるね」
「そうか?いつもこんくらいだろ」
「よく見ると跳ねてるな〜って」
「ていうかお前トイレ行ったろ。ちゃんと手洗った?」
「乙女になんつーことを聞くんだよ」
「乙女……?」
「おい、俺を置いてイチャイチャすんな」
倉持君の不機嫌な声。御幸の髪を指でいじりながら、そっちに視線を向けると、声のとおり不機嫌な顔をした倉持君がいる。
「倉持君のえりあしも長いよね」
「触らせねーけどな」
「何で?固めてんの?ワックスなの?」
「興味津々かよ」
「男子の髪事情ってちょっと気になる」
「気になるのはいいけど、みょうじはいつまで触ってんの」
ぽすっと、御幸によりかかられる。重い。
「……」
「……」
「……」
御幸の肩を押して、すみやかに自分の席に座った。
「さりげなくセクハラしないで。キモイ」
「バレた?」
「バレるよ、思いっきり頭が胸の間にあったんだから」
「はっはっは、つい」
「ついじゃねーよ、倉持君が絶望の面持ちじゃねーか」
「こいつら本当嫌だ……」
「御幸が悪いんだよ!私をひとくくりにしないで!」
「いーじゃん、減るもんじゃねーし」
「まあそうだけど」
「それで納得すんのかよ……」