「あ、もしもし御幸?寮だよね?苺もらったからおすそ分けしたげるよ!今から行くから、寮の前まで出て来といて!…小林さん(運転手)ゴー!」
『は?何?』
「じゃ、あとで!」
電話をぶつりと切る。車の後ろには大量の苺が積んである。お父さんから送られてきたものである。しかし、正直そんなに食べられない。特別好きだというわけでもない。
「いいんですか?一方的なように聞こえましたけど…」
「いいのいいの、いつもそんなもんだから」
「はあ」
「小林さん(運転手)も持って帰ってくださいね、苺」
「彼氏にあげたって言ったらお父様が怒り狂いますよ」
「うん、だからこのことは二人だけの秘密ってことで頼みます!ていうか彼氏じゃない!」
苺なんかで私の機嫌がとれると思ってるお父さんもむかつく。そんなものより会いに来てくれたら、それでいいのに。
「やっほー、待った?」
「マジなんなのお前」
「先輩、こんばんは」
「あれ、降谷君も来たの。こんばんは」
「無理やりついてきたんだよ」
「ダメでしたか?」
「私はべつにいいよ。降谷君に会うの久しぶりだね、うれしい」
「僕もうれしいです」
御幸とちがって降谷君は素直でかわいいな。何で私が気に入られてるのかは分からないけど。
「あ、そうだ苺!何箱もってく?」
「うわ、なんだこれ…全部苺?あ、運転手さんこんばんは」
「どうも、わざわざ…こんばんは」
「好きなだけ持って行ってくれていいよ、私いらねーから」
「何があったらこんな大量に入手できるんだよ…」
「家庭の事情?」
「お前んち苺農家だったの?」
若干引いている御幸と、興味深そうに苺を眺める降谷君。私のうちが裕福なおかげでピアノを好きなだけやらせてもらってるのだから、そこは感謝してる。
「寮の人みんなで私に感謝しながら食べてね」
「ありがとうございます」
「はっはっはっ、恩着せがましい」
「御幸だけ私に感謝状の提出な」
降谷君はこんなに素直なのに。なんて可愛げのない男なんだ。