「ごめん御幸、赤ペン貸してくれない?」
「一回一万円でーす」
「ぼったくり!」
答え合わせをするのに赤ペンがないと、やる気がなくなる。スコアブックとにらめっこしている御幸の筆箱から勝手に赤ペンを取り出す。
「勝手に持ってくなよな」
「快く貸してくれないからでしょ」
「俺じゃない奴に借りれば」
「お前普段、私からどんだけ色んなものを借りてると思ってるの」
「俺にはお前しかいない」
「あれ、イケメンに言われてるのに一ミリもときめかない……」
丸付けをしたテキストの端っこに、”御幸から借りた赤ペン!”と書いて、ちょっと恥ずかしくなったので、そのまま赤ペンで塗りつぶした。
「うわ、人のペンのインク無駄遣いしてやがる」
「心せっま!」
「うるせーよ」
「はい、返す。ありがと」
「戻しといて」
「はいはい。あ、これ飴食べる?お礼にあげるよ」
「ん、あー」
「はい、あーん」
スコアブックから全く目を離さない御幸が口を開ける。仕方ないなあ、という面持ちで、その口に飴を袋ごと突っ込んだ。