グラウンドピアノと楽譜。すてきな空間だ。
「愛の挨拶、かあ」
コンクールの課題曲になっているのは、エドワードエルガーが恋人へ送った曲。婚約祝いだか何だかだったと思う。
恋じゃなくても、いいのだろうか。目の奥をちらつくのは上から見たグラウンドと空の色。それからーーー。
「いい演奏だったよ」
「ふへへ」
「笑い方キモいな……でも演奏は最高だった。結果は知らん」
「たぶんまたそこそこの結果ですよ…どうせ…また楽譜通りに弾け、って言われますよ…」
「直前までのクソ演奏を考えたらすげー進歩だよ」
「クソ演奏言うな」
「でももっと上品な曲だからな、お前のははっちゃけすぎてた」
「それは…まあそうですよね」
「何であんなキラキラさせた?」
「よ、よく分かりますね先生…さすが私のファン。ていうかキラキラって…いいオッサンが…」
「茶化すな」
「キラキラしたものをイメージしたからですかね」
「恋か」
「恋…まあそうですかね。私のじゃないですけど」
「誰の」
「うーん野球少年たちの?」
恋ってきっと、ああいうことなんだと、思った。真剣に、真っ直ぐに、純粋に、奴らは野球に恋をしていた。