「ねえ、数学の宿題やった?」
「やってねえの?」
「忘れてて…」
「ふーん」
「……」
「……」
そう言って、私から目をそらし、野球関連(おそらく)の本を読みだした御幸に舌打ちをする。
「忘れたって言ってんだから、見せようか?くらいのやさしさを提供しろよ」
「何様だよお前」
「ねー見せてよ数学ー、リーディングの和訳見せてあげるからー」
「いや、俺はもっと字の綺麗な女の子に見せてもらうんで」
「うわ、クズかよ」
「だって、お前の字読めねえんだもん」
「じゃあ何も貸さない。だから数学の宿題見せて?」
「交換条件成立してねえぞ」
数学は苦手だ。というか勉強はだいたい苦手だ。だって音楽推薦だもの。勉強しないで入ったんだもの。
「御幸、おねがい」
「え〜〜」
「ケチな男だな!本当もう!」
「じゃあ代わりに俺の言った曲ピアノで弾いて」
「はあ!?何その交換条件!めんどくさ!」
「何がいいかな〜〜」
「え、待って、やだ御幸の前でピアノ弾くとかまじムリなんだけど」
「は?何で。俺がイケメンだから?」
「ちげーよ。なんかバカにされそうだし……」
がっかりされるの、やだし。人格とか態度に関してはもうどうでもいいけど、ピアノはなんか、ちょっとやだ。
「普通に俺のヒッティングマーチでいいか」
「何勝手に話進めてんの、ていうか御幸のヒッティングマーチなんか知らないし、ヒッティングマーチって何!?」
「狙い打ち、知ってんだろ?」
「いやあ、弾いたことないし…ちょっと、むずかしいですね…」
「みょうじはピアノのことになるとすぐキャラ崩れるよな」
うっ、やめてくれ倉持君。そんな、お前何嘘ついてんだよ、みたいな目で私を見ないでくれ!すまん御幸嘘ついて。狙い打ちめっちゃ知ってます。
「ほら数学のノート、受けとれよ」
「御幸って嫌なとこを的確についてくるよね、才能あるよ…」
「はっはっは、まあな」
「褒めてないよ…」