グラウンドからすごい声がすると思ったら、降谷君と、同じくピッチャーの……確か沢村君がタイヤを引いて走っていた。
ほんとにタイヤ引いて走る人っているんだなあ。こんな遅くまで、感心感心。
腕を組んでそんなことを考えていたら私に気付いた降谷君がこっちに走ってきた。
「何だ降谷!競争かっ!?受けてたーつ!!」
「……」
「うおおおおお!!!!」
すごい勢いで男子が走ってくる。なに!?怖い!!
「せんっ、ぱい、こんばんは」
「こ、こんばんは」
「こんばんは!!!いや、はじめまして!?」
「ちょっと君、うるさい……」
「うるさいとは何だ!というか、この方はどちら様?」
「みょうじ先輩」
「初めまして、みょうじ先輩!私沢村栄純と申します!青道高校野球部エースになる男です!」
「初めましてじゃないし、うるさい……」
私のことも知らないのにきちんと挨拶をしてくれる沢村君はいい子だ。うるさいけれども。
前に一度御幸を探しに私のクラスに来たことがあるし、ヤツからも話をよく聞いてるから沢村君のことはわりとよく知っている。
「よろしく、沢村君。2年B組のみょうじです。御幸一也から、君の話はよく話聞くよ」
「御幸一也から!?一体どんな……!?」
「主に失敗談だけど」
「ぐぬぬぬ、あの男……」
「御幸はそういう男だよ」
「先輩は御幸一也のご学友で?」
「ご、ご学友……うん、まあクラスメイトだよ」
「先輩みたいな女性と知り合いとは、なかなか隅に置けないッスね!アイツも!」
「ふふふ、まあね!」
なかなか口が上手いというか、話しやすい子だな、沢村君。テンション高くて何となく親近感を覚える。すごいバカそうだけど。
「ところで、先輩はここで何してるんですか」
「あ、うん、あのね、迎えの車が渋滞に巻き込まれたみたいで……校舎内は鍵かけるから追い出されちゃってさあ」
「それは難儀な!」
「グラウンド明るかったし、降谷君いるかな〜っと思ってこっち来てみたんだ」
「!、僕ですか」
「ん?うん」
ちょっと嬉しそうな降谷君に微笑むと、沢村君があっちに御幸いますよ、と指差した。
「御幸?別にいいよ」
「いいんスか?さっきバッティングの練習してから上がるっつってましたから、会えると思いますけど」
「教室で会ってるからわざわざ会いに行かなくても……。それに部外者立ち入り禁止でしょ?」
「さあ、そうだっけか、降谷」
「知らない」
「暇なら見学してったらどうっスか?こっそり。俺らももう終わりにしようと思ってましたし、付き合いますよ!」
「僕も」
「おっ、珍しく付き合いいーじゃねえか降谷!」
そんなこと言われても見つかったら怒られるんじゃ……でも暇だし、こう言ってくれてるしな。御幸がバッティングしてんのも見てみたいような気もするし。
「じゃあちょっと覗いてみようかな」
「おおっ、どうぞ!」
「こっちです……」
「私夜のグラウンドとか初めてだよ!新鮮な感じがするね」
「そうっスか?」
「ずっといるから、あんまり分からないです」
「そりゃ君らはね!」
「何してんのお前ら」
あ。聞いたことある声。
「み、みゆき……と、ボス……」
「……」
「沢村、降谷、いい加減タイヤはしまってこい。みょうじは……みょうじ?」
すっごい序盤で片岡先生に見つかっちゃったじゃねーか!!!最初っからクライマックスだよ!
「何をしているんだお前は」
「あ、あの、ちょっと時間があって……」
「……」
「そしたら、沢村君が……」
「……御幸」
「はい、ちょっとあっち行こうかみょうじ」
「危険だから、しっかり送るように」
「先生ごめんなさい〜沢村君降谷君ごめんね〜……生きて……」
「余計なこと言うなみょうじ、早く行くぞ!」
「バカか」
「ごめん」