まっすぐひねくれる | ナノ
「1日の練習量はどれくらいなんですか?」
「えっと……だいたい七、八時間くらいです。休日は多分もっとやってますけど」
「学生さんですもんね。勉強とかと両立するの大変じゃないですか?」
「そうですね……勉強はちょっと、大変ですね……」
「みょうじさんの通ってる学校は青道高校でしたっけ。野球が強いところですよね」
「はい、たまに野球部の応援も行きますよ。クラスメイトが出てたりするんで」
「みょうじさんはストイックに練習しているイメージが強いので、ちょっと意外です」
「えっ私ストイックな感じします?」


「最近取材増えましたね」
「あ〜〜はい……最近コンクールいい感じですしね…」
小林さん(運転手)の車は相変わらず快適だ。練習と取材で疲れ切った私にはありがたい。バレンタインデーなのに、なんて色気のない1日だったんだろう……。
「留学の話もあるってもう噂されてますよ」
「みんな、私の話に興味あるんですかね」
「昔から天才ピアニストって騒がれてましたからね。美人ですし」
「いつの話ですか……っていうか私のこと美人って言うの小林さんとお父さんくらいですよ」
「ああ、御幸君はすぐブスって言うんでしょう?」
「多分あいつメガネの度が合ってないんですよ。ていうか、何で笑ってるんですか!?」
「いえ、仲良しだなあと」
「…や、やめてください」
仲良しとか気持ち悪い。
「彼氏ができたなんて知った時は驚きましたが、上手くやっているようでよかったです」
「ああ……それ誤解なんですけどね」
「御幸君の方も雑誌でよく見ますよね。お父様もこっそり読んでいましたよ」
「えっ、御幸の載ってる雑誌を?お父さんが?」
「娘の彼氏ですから、気になるんでしょうね」
「まあ誤解なんですけどね」
何度言っても流されるけど。
「でも、またたくさん雑誌にとりあげられたら、お父様も心配しますよ。悪い虫がつく〜って」
「心配する必要ないと思います、悲しいことに……」
「可愛い一人娘ですから、心配するでしょう」
「心配のベクトルがいつもなんかおかしいんだよなあ」
「不器用な方なんです」
「本当ですよ」
大切にされてるのは分かってる。お父さんのことは大好きだし、感謝してるし、お父さんを喜ばせてあげたいと思ってる。
「だから私、基本的に親孝行な娘でしょ?」
「確かに、そうかもしれませんね」
「まあ頭は悪いから心配はかけてるみたいだけども……」
「そう思うならお勉強も頑張ってください」
「これでも必死にやってます!」
「知ってます」
小林さんが運転しながら笑う。この人は昔から私の送迎やら何やらを引き受けてくれているので、下手したらお父さんよりも一緒にいるかもしれない。だから、私のことをとてもよく分かってるのだと思う。
「知ってますよ、いつもお嬢さんが必死なことくらい」
「……そうですか」
「明日も必死に頑張ってください」
「あれ、何かその言い方バカにしてません?」
「滅相も無い」