「降谷君、知ってる?この世にはバレンタインっていう行事があるんだよ」
「知ってます」
「あ、知ってるんだ」
「さすがに聞いたことくらいはあります」
なんか降谷君って浮世離れしてるイメージがあったから、つい。
「あの、チョコレートを……どうこうするんですよね」
「うん、そんな感じ」
「すみません僕チョコレートって作ったことなくて……」
「別に君にねだってるわけじゃないよ?いらないよ?」
降谷君からチョコレートもらっても何か不思議な感じになると思うし。ていうか、降谷君はむしろもらう側だし。
「私さ、嫌いなんだ。バレンタイン」
「そう、なんですか」
「友だちがね、わりとたくさんいてね。みんなが私に友チョコをくれるんだ」
「?、はい」
「山のような友チョコ、妬みを孕んだ男子の視線、足りないお返し……チョコレート獲得数学年でトップといういらない称号」
「……」
「ついたあだ名はチョコ軍曹のみょうじ……」
「大変、なんですね……」
「うん……」
女の子の友だちが多すぎるのも考えものだ。私が男だったらまた別の立場だったかも……いや、その時はきっと義理チョコ王とかそんなあだ名がつくんだろうなあ……。
「よくわかんないんですけど、みょうじ先輩は僕にチョコレートくれるんですか?」
「え、この話の後にそれ聞いてくるの?まあほしいなら、あげるけど」
「くれるんならほしいです」
「でも多分降谷君ほかの女の子から鬼のようにもらうと思うよ」
「そうなんですか?」
「そうなんですかって……え、そうでしょ?ちがう?」
学年が違っても降谷君の話はよく聞くし、こうして、図書室でおしゃべりしてても視線が時々痛いから、そうなんだと思ったんだけど。
「先輩は本命チョコ作るんですか?」
「ほ、本命?」
「カレのハートを射止めますか?」
「んんん????」
「あそこに書いてあります」
降谷君の指差す先にはバレンタイン特集を組んでいる雑誌があった。でかでかと表紙に書いてある本命チョコという単語を見て納得する。
「射止める相手……いないからなあ。って言わせんなよ!泣けてくるよ!」
「すみません」
「今年も友チョコを山のように生産して、それを友だちに配るだけのバレンタインだよ……」
「って、みょうじ先輩が言ってました」
「……何でそれを俺に言うのかなお前は」
「友だちだから御幸先輩はもらえるかもしれないなって」
「嬉しくねーしいらねーよ。第一甘いもん好きじゃねーし」
「(でも受け取るんだろうな)」
「それにみょうじは俺にそんなもん寄越さねえだろ。普段の行い的に」
「……」