何だか最近、御幸が優しい気がする。
「気のせいかな」
「さあ……」
「数学教えてくれたりとか、まあ嫌味っぽいのは相変わらずなんだけど」
「僕にはいつもの御幸先輩に見えましたけど」
「そっかあ。というか、廊下寒いね」
一年生の教室の前を通ったら、偶然降谷君と出会ったので、立ち話をしていた。廊下寒い。
「そうですか?」
「そうだよ。むしろ何で君はこの時期カーディガン一枚なの?」
「下にアンダーシャツ着てます」
「私だってヒートテック着てますよ」
新陳代謝の差だろうか。
「僕も、みょうじ先輩には優しいですよ」
「え?うん、そうなの?」
「先輩は……僕のおばあちゃんに似てます」
「え?…え!?」
「優しくしたくなります」
「それは嬉しいけど、え、おばあちゃん?」
確かに老人はいたわるべきだけども。いや、私老人じゃねえから関係ねえわ。
「……」
「おい、こっち見なさい降谷君!先輩はピチピチの女の子ですよ!」
「……」
「無視か!」
確かに、降谷君が孫だったらなんかこう……幸せな感じかもしれない。しかしだからと言って、おばあちゃんを容認するわけには……。
「女の子におばあちゃんみたいってどうなんですか」
「……褒めたつもりだったのに……」
「不器用かよ!」
「ごめんなさい」
「まあ許すけど」
悪気はなさそうだから。降谷君は褒めたつもりだって言ってたし。
「先輩は怒っても殴ったりしないから、好きです」
「な、殴っ……いじめられてるの?大丈夫?」
「野球部は、そういうスキンシップが多いみたいです」
「運動部のノリってやつか……」
「御幸先輩が優しくないのも、もしかしたら、そういうやつなんじゃ」
「スキンシップ?」
コクコクうなづく降谷君を横目に、ブレザーのポケットの中のカイロをいじる。
「だって、みょうじ先輩と御幸先輩は友だちなんですよね」
「うーん…たぶん」
くだらないことばっか言ってるし、だいたい悪ふざけしかしてないけど。お互いに。
「あんまり、女の子にはそういうのしないほうがいいと思いますけど」
「おお」
「?」
「なんか降谷君ってそういうの分かってなさそうだったから意外で」
「……ちょっとくらいは分かります」
「え〜〜」
「先輩のほうこそ分かってなさそう」
「いやいや、乙女心も男心もバッチリだよ!」
「……」
「また無視か!」