「ねえ、クリス先輩にバレてたんだけど」
「ん?」
「御幸と!倉持君が!部室で!私がクリス先輩を好きだって話をしたせいで!」
「……」
「ねえ、倉持君も聞いて!?」
「なんだよ」
「何か怒ってるんだよ」
何か怒ってるんだよ、じゃないわ。ちゃんと聞け!
「何でそういうの部室で話しちゃうの。クリス先輩に聞かれてたんだけど」
「マジか」
「ヤベーな」
「そんな真顔で!デリケートな話なんだから、やめろよ本当に……」
「悪かった」
「ごめん」
「まあどっちにしろ失恋したんですけど」
「……おー、可哀想に。よしゃしゃしゃ」
「ド、ドンマイ…」
御幸にわしゃわしゃ頭を撫でられて、倉持君に励まされる。ムツゴロウさん……。
「別に失恋については落ち込んでないけど、君たちのデリカシーの無さについては遺憾を感じてる」
「ごめんって」
「普通は許されないからね、これ!私が寛大だから許すけど!」
「ごめんな〜〜」
「倉持君抱きしめて〜」
「おい、近くにいるの俺なんだけど」
「倉持君がいい」
「嫌だ!!!」
撫でられてる手を跳ね除けて、倉持君を求めたら力一杯拒否された。まあ冗談だからいいんですけど。
「なんでいつもそんな全力で拒否するの。悲しいんだけど」
「全力で嫌だからだよ」
「傷付くわ〜〜〜失恋の痛みも相まって涙出てくるわ〜〜」
「おら、御幸慰めてやれよ」
「あ、悪い、今資料見てるから」
「切り替え早いな!野球と私どっちが大事なのよ!」
「野球」
「うん、知ってた!」
倉持君はあんなんだし、御幸はこんなんだし、私もこんなんだし。ダメダメだな。
「今度なんか奢ってやるよ」
「倉持君……駅前のワッフル屋さんのワッフルでいいよ」
「そんなとこまで行けるか。コンビニで買えるやつにしろ」
「……バームクーヘン」
「了解」
何だかんだ倉持君はやさしいな。まあ当然とはいえ。
「お前バームクーヘン好きだな」
突然、御幸が会話に入ってきた。お前資料見てたんじゃないの。
「そう?」
「前もコンビニで買ってたろ」
「ああ、よく覚えてんね」
「記憶力いいんだよ」
「私のことよく見てるよね、意外と。好きなの?」
「記憶力がいいんだって。話聞けよ」
イチャイチャすんなよ、って言い捨てて倉持君は自分の席に戻ってしまった。イチャイチャはしてないな。