「あーーー……」
「もうちょいで保健室だぞ」
「みゆきくーん、おんぶー」
「はっはっは、突き落とすぞ」
「あはは、階段でそれは笑えねーわ」
普通に死ぬ。
「お前そういうふうに甘えんのやめろ」
「……ごめん」
「ぶすくれんな」
「だって、いやならほっとけばいいのに。私にかまってんの御幸じゃん」
「……」
「どうせかまうんなら優しくしてよ」
「……」
「何とか言えや御幸一也!…うっ、目眩が……」
「叫ぶからだろ……あーもう、わかったよ。おんぶな、してやるしてやる」
「いらん!」
「は!?どっちだよ!」
「そんな嫌々おぶられても嬉しくない!どうせ重いとか痩せろ豚とか言うでしょ!」
「めんどくせー女だなマジで……」
「しみじみ言うな!」
御幸に勢いよく文句を言っていたら、足元がぐらついた。あ、やべ、階段なのに。
「あっ、ぶねー」
「……死ぬかと思った」
「ちゃんと歩けバカ!」
「ごめん!」
「危うく俺も道連れのところだったわ!」
「ごめん!」
ぐいっと腕を掴まれて、踏み外さないように抱き寄せられた。助かった。…助かったけど、ちかいな、なんか。こんな距離で怒鳴りあいみたいな大声を出すもんだから耳がキンキンする。
「ちっっけえよ、ブス」
「……御幸は、近くで見てもイケメンだね?高画質?地デジ対応?」
「は〜な〜れ〜ろ〜〜」
「うん」
「…うんじゃねえだろ」
「ああ、うん、ありがとう。助かった」
「……おう」
「死ぬかと思っ」
「それさっき聞いた」
「…やっぱり背負って。足痛い」
「無理」
「なんで。足が痛い!くじいたかもしれない!」
「無理なもんは無理」
「さっきはしてくれるって言ったのに!」
「さっきはさっきです〜」
ちょっと少女マンガみたいな展開で、ドキッとした、なんて言えないな。いつもどおりに振舞っているけど、ちょっと顔が熱い。腐っても女だからな私も……あ、なんか自分で言ってて傷ついた。
「助けてくれたのは感謝してるが、ブスと言ったことは許さないから」
「俺そんなこと言ったっけ」
「しっかり言ってましたよ、とぼけんな」
「無意識だわ」
「最悪」
「はっはっは」
「ていうか御幸、ドキドキした?」
「は?」
「心臓が速かったから。なに、ブスにときめいた?」
「ちげーよ、恐怖だよ。一緒に階段から落ちるかと思って」
「ちょっとくらいドキドキしろよ、逆に傷つくわ」
この階段を降りたらすぐ保健室だ。もう一人でも大丈夫。足ちょっと痛いけど。
「お前こそ顔赤いけど?」
「……ムダなイケメンなんとかしろ」
「はっはっは!」
「何笑ってんのムカつくな〜、もう一人でいいよ、触んな」
「ここまで連れて来てやったのに触んなって」
「ありがとね!!帰ってよし!!!!」
「何様だよ」
床はやっぱりふにゃふにゃするけれど、それよりも顔やら耳やらの熱をなんとかしたくて、御幸から離れた。くそ、だっていくらこんなんでも、イケメンなんだもん。シチュエーションもずるいし。これはずるい!
「お前、風邪うつされたんじゃねーの?みょうじに」
「……倉持」
「病人みてーな顔だぞ」
「…あいつはただの貧血だろ。うつんねーよ」
「知らねーけど」
「あー……」
「どうでもいいけど、その腑抜けた顔部活までになんとかしろよ」
「なあ、みょうじってブスだよな?」
「何の確認だよ。殴られるぞ」
「メガネの度数あってねーのかな……」
「知らねーよ!」
なんであんなのに、ときめいたんだ俺は?