「ふふーふーふふん」
「……」
「ふーんふはふーん」
「おい」
「ん!?んんん!?何!?御幸!?」
「そうだけど」
「いるなら声かけろよ!」
「いや、楽しそうだったから」
「ふつうに恥ずかしい!」
音楽室で鼻歌まじりに楽譜整理してたら、御幸に見られた。
「昼休みもいねえと思ったら、こんなとこにいたのな」
「うん、まあ」
「根詰めすぎなんじゃねえの?」
「なんかエネルギーがあふれてんの、今」
「だからって放課後も昼休みもピアノしかやらねえって逆に不健全だろ」
「ほっといて。ていうか御幸は何しに来たの?」
「プリント出すの忘れてて、音楽の」
「だっせ!」
「ほっとけ」
「あ、先生なら準備室だよ」
「おー」
「…早く行きなよ」
「一緒に昼飯食う」
「は?」
「一人じゃ寂しいだろ」
「……」
「俺が」
「御幸がかよ!というかそんなのいつものことじゃん!」
「うわ、傷付いた〜」
御幸は来る途中で買ったのか、大量のパンの袋を持ち上げて軽くふった。そりゃ、前は友達とごはん食べてたからちょっとさみしいなとは思ってたけど。でもそれよりピアノに触れてる時間を長くしたかったから、ここで昼食を食べることを選んだのだ。
「早くプリント出して帰ればいいのに」
「そんなに俺と一緒は嫌か」
「そういうわけじゃないけど」
「ならいいだろ」
まあいいんだけど。
「そんなに食べんの?」
「これくらい普通だろ」
「野球部の普通怖いよ」
「お前ももっと食べねえと、筋肉つかねーぞ」
「そんなに筋肉求めてないから」
「ピアノ弾くのにいるだろ」
「だからって運動部と比べられても」
青道の野球部の基準でモノを言わないでほしい。
「よくそんなほせー指で弾けんな」
「ふふん、私、手だけは綺麗だねって言われるんだよね」
「それ遠回しに他は綺麗じゃねえって言われてるけど」
「都合のいいようにしか受け取りません」
「そのポジティブさ尊敬するわ」
「御幸こそ、意外と男らしい手じゃん。なかなかだよ」
「なんで上から?」
お弁当を食べながらの会話はちょっと久しぶりで、楽しい。やっぱり食事は一人でするより誰かとしたほうがいいな。
「ハンドクリームとか塗ってる?」
「まあ一応」
「さっすが〜」
「俺より、他の奴らにケアさせんのが大変」
「降谷くんとか?」
「そう、あと沢村な」
「ピッチャーの……騒がしい感じの」
「ああ」
「分かる気がする」
「爪も言わねーとやらねーし」
「まあそういうのも気にしてやるのが女房のつとめでしょ」
「甲斐甲斐しく男子高校生の面倒見たくねーよ。悲しくなるわ」
そういうのも楽しそうだと思うけどな。よく知らないけど。
「どうでもいいけど、これ食べたら私練習するからね。話しかけないでね!」
「堂々と人の話どうでもいいとか言いやがって」
「コンクール近いんですう」
「それ可愛くねえからやめろ」
「私の可愛さを発揮するのは今じゃないってことだよ」
「いつ発揮されんのそれ。見たことねーけど」
「御幸の前で発揮されるわけねーだろ」
「…なるほど」
だって、可愛げなら私よりあんたのほうが持ってるみたいだし。
私のことを気にしてくれてるくせに、素直にお昼を一緒に食べたいと言えないいじらしさは、正直可愛いと思う……。女として負けた感じがするから言わないけど……。