「みょうじって試合見に来たことねえの?」
「あ、うん、ちょっと予定がなかなか合わなくてね…」
倉持君に言われた通り、私は野球部の試合を見たことがない。
「何だよ、俺の活躍見に来いよ」
「倉持君の活躍はもちろん見たいんだけどね。練習とかあるし」
「あーピアノか」
「ウン」
「何でこっち見ねえの」
「スンマセン…」
ピアノは確かにやってる。嘘じゃない。
「みょうじちゃんピアノ超うまいよね」
「や、やめてよ。サキちゃん」
「しょっちゅう表彰されてるじゃん」
「う、うーん……」
「何でそんな自信ないんだよ」
会話に入ってきたサキちゃんによって、私の冷や汗がとまらなくなった。
ピアノは、好きだけど。コンクールとか、そういうのは、あんまり。好きで出てるわけじゃ……。
「でもさ、音楽室でラジオ聴いてるときあるよね」
「!?」
「野球部の試合の実況」
「何を言ってるのサキちゃん」
「弾いてるじゃん、狙いうち」
「サキちゃん!!!!!!えっ、サキちゃん!!!!!」
「へえ〜〜〜〜」
「違うよ倉持君、ちがうから!た、たまたま!そんなんじゃないから!」
「へえ〜〜〜〜」
「あーーー!!!!」
痛い。倉持君の生ぬるい目が痛い。ちがうんだ、たまたま耳に残ってたから、弾いてみたら案外好きな曲調だったっていうか!
「ていうか、本当なんで知ってるのサキちゃん…」
「音楽の先生が言ってた」
「聴かれてたのか、不覚…」
「課題曲よりよく弾けてるって」
「へえ〜〜〜〜」
「クソ、あのジジイ何でもかんでもベラベラと喋りやがって!」
サキちゃんも倉持君もニヤニヤしてるけど、関係ないから。御幸は何も関係ないから。御幸のヒッティングマーチが狙いうちなこととか全然関係ないから。
「なんだかんだ言ってちゃんと応援してんじゃん」
「……」
「素直じゃないよね、みょうじちゃん」
「サキちゃん、その話はあとでゆっくりしよう。私と」
「御幸に教えてやろ」
「やめて!!!!」
「ヒャハ、おもしれー!」
「本当やめて!!!」
「楽しそうだな、何の話?」
「御幸には一ミリも関係ないから向こう行ってろクソが」
「えっ、何でみょうじキレてんの?」