「先輩、キッチン片付けていいですか!」
「んだよ突然……」
「散らかっていて気になります!あときれいにしたら私が使ってもいいですか?収納しきれないスパイスとか置いて帰りたいです」
「他人ん家をテメーの倉庫にする気か」
ゴクデラ先輩は流しでカップ焼きそばの湯切りするくらいしかキッチン使っていないのだから、別に構わないだろう。勝手にしろ、と言われたので私は嬉々として掃除に取り掛かった。
「食器も全然ないですよね、先輩のおうち。お茶碗一膳じゃお客さんが来た時に困りますよ!食器は2セットずつくらいあった方がいいです」
「誰も来ねえから問題ねえんだよ」
「先輩友だちいないんですね!私と一緒!」
「一緒にすんな」
エプロンに三角巾をつけお家からお掃除セットを持って来た。先輩はそんな私を怪訝そうな目で見ていた。大丈夫です、私、お掃除も得意ですから!


「きれいになりました!」
「おお……おお」
「調味料置かせていただきました。乾物類などもうちのキッチンには収納しきれなかったので、先輩のキッチンをお借りさせていただきます!」
「図々しいなお前」
「なまえちゃんとお呼びください!」
「ふざけろ」
先輩に頭をチョップされた。痛い。
「あっ、先輩、今日の夕飯はおでんを作ろうと思うのですが、召し上がりますか」
「このクソ暑い中おでんかよ」
「冷やしおでんです!夏向けメニュー!」
ちょっと興味があるのか、先輩は持って来いと言った。決まりだ!


「どうぞ、召し上がってください!トマトとジャガイモがおすすめの具です!」
「トマト」
「夏おでんの具としてはわりとメジャーなのですよ、トマト」
先輩はトマトを箸でつまんで変なものを見る目で見た。美味しいから安心してほしい。にこにこ見守る私に先輩は恐る恐るそれを口に運んだ。
「どうです!美味しいでしょう!」
「……」
「お好みですだちと生姜をつけて食べてください。オーソドックスなかつおだしですがさっぱりしていて美味しいので……んぐっ」
「うるせえ」
口の中に玉子を突っ込まれてもぐもぐ咀嚼した。我ながら良い出来である。先輩は美味しいとは絶対に言わないが無言でパクパク食べているのでお気に召したようだ。
「多めに作ったので、冷蔵庫に入れておきますね!」
「おー」
心なしか声がおだやかで、眉間にシワも寄っていない。お腹が満たされれば心も満たされる。よかったよかった。