私はお隣さんのゴクデラ先輩に3日に一回くらいご飯を作るようになった。先輩はそのたびに食費として千円くれる。ふとっぱらだ。
「今日は唐揚げです!ご近所さんからもらったカボスをかけると、より爽やかに召し上がることができます!」
「このクソ暑い中揚げもんしたのか、汗ダラッダラじゃねえか」
「キッチンに扇風機しかなくて!」
エアコンの入った先輩の部屋は涼しい。夏場の揚げ物は正直ちょっと大変ではある。暑さと熱さとの戦い。負けられない戦いなのである。
「ワカメサラダと、ナスのお味噌汁もご用意しました!ごはんはたくさんあるのでおかわり可です!」
先輩は私よりもたくさんごはんを食べるので、多めに用意している。両親もそこまでたくさん食べる方ではないため、作り甲斐があって楽しい。先輩にそれを言えば、俺より食う奴のが多いだろ、と言っていた。育ち盛りの男子中学生の食欲はすさまじいものがある。
ごはんを食べた後、先輩は真剣な顔をして私に話を切り出した。
「お前、学校で俺に話しかけるなよ」
「?、分かりました!」
「おお物分かりいいな」
「私も、近所のスーパーで母と一緒に買い物しているところをクラスメイトに見られたくないという気持ちを持ったことがあります!つまりはそういうことですね!」
「……全然違うがまあいい」
了解しました!と笑えば先輩は頬杖をついて私を見た。
「それより、唐揚げどうですか!二度揚げしてあるので外はカリカリ中はジューシーでしょう!」
「よくやるな」
「揚げ方に妥協はできませんからね!」
パタパタと顔を手で仰ぐ。揚げ物でそこを妥協してしまうことは許されない。そう、揚げ物にとって揚げる工程は、だるまの目に墨を入れる作業と等しい……多少暑くてもそこは頑張るしかない。
「他人に熱中症どうのこうの言っといて自分が倒れてたら世話ねえぞ」
「大丈夫ですよ!暑さ対策で裸でやってましたから!」
「は!?」
「冗談です!」
ちょっとした冗談なのに、先輩はわけわからん冗談言うのやめろと怒った。場を和ませようとした私の努力を叱らないでほしい。それに揚げ物は油がはねたら危ないので服は着てやる。ちなみに煮物の場合は脱ぐ時もある。
「お前のその変な冗談何なんだよ」
「私は空気が読めませんので、せめて場を和ませようと努力しているのです!」
「ぜってー空回ってんだろ」
「そうですね!基本空回ってます!」
「ダメじゃねえか」
それでも、努力しないよりはマシだ。空気が読めない私なりの処世術である。
「それと、お前って言うのやめてください!私はみょうじなまえといいます!なまえちゃんと呼んでください!」
「ぜってー嫌だ」