「よお」
……。
「ぎゃー!!」
「うるさっ」
「何でいるの!!」
「近くまで来たから、ついでに寄ってみただけだよ」
「ここヨーロッパだぞ!?」
ちょっと立ち寄る距離なのか!?
「えっ、徹夜の私が見てる幻覚じゃないよね!?」
「はっはっは」
「触れる!!幻覚じゃない!!」
「うん、とりあえず入れてくんね?」
何で御幸がここに!?住所は渡してたけども!
「うっわ、部屋汚な」
「し、試験前なもんで……」
「これ全部楽譜かよ?足の踏み場もねえ〜〜」
「試験前なもんで!!」
「ちゃんと寝てんの?」
「……」
「目ぇそらすな」
玄関からすでに汚い私の部屋にあがった御幸にチョップされる。試験前なんだもん。
「で、俺に言うことねえの?」
「……うっす、お久しぶりです」
「年末年始帰ってくるって言わなかったっけ?」
「い、忙しくて……年末年始は楽団のコンサートとかもいっぱい入ってたし……」
「はあ……」
「ていうか、御幸は何でここに、忙しいんじゃ……」
「今シーズンオフだから休みもらった」
「ふーん」
「ふーんじゃねえよ。俺が一人で海外に来るの、どんだけ大変だったと思ってんだ」
「ご、ごめん、いででででっ」
御幸一也と会うのは、約二年ぶりである。二週間に一度くらいは連絡(生存確認)してたけど、私が日本に帰らなかったから、会う機会がなかった。
それに、私と御幸の休みあんまりかぶらないし。私は大学生。御幸はプロ野球選手。プロ野球選手だぜ?青道出身の選手は多いにしても、まさか知り合いからそんな奴がでるとは……驚きである。
「わざわざ休みに私に会いに来たの?大丈夫?」
「……」
「ひぎゃっ、いだ!いだだっ!頭鷲掴まないで!」
「他に言うことは?」
「会いに来てくれてありがとうございますっ!嬉しいッス!」
「ん」
「でも私試験前で、御幸にかまってる時間今なくて……あの、ほんと、今、切羽詰まってて」
「……はー」
「ごめん!ごめん!怒らないで!きらいにならないで!」
「ならねえよ」
ため息をついた御幸の背中にひしっとくっつく。二年ぶりなのにこんなんでごめん!成長してなくてごめん!
「……みょうじ、ちゃんと食ってねえだろ」
「食べてる」
「嘘つけ」
「……ちょっとだけ食べてる」
「ちょっとって何だよ」
「……」
「はー……キッチン借りるぞ」
「作ってくれんの!?」
「お前はやることあんなら、そっち戻れ。出来たら呼ぶ」
「みゆき〜〜〜」
「はっは、泣くな。鬱陶しいから」
「ピアノの部屋にいる……」
「おー」
わしゃわしゃとボサボサの頭を撫でられて、ちょっとだけ泣いた。この人本当バカだな〜〜何で私追いかけて来ちゃうかな〜〜。忙しいだろうに……バカだなあ。私のこと好きすぎかよ。
「御幸……好き……」
「はっはっは、そんな死にそうな声で言うことかよ」
「し、試験終わったらもっとちゃんと可愛く言うから!」
「期待しないで待っとく〜」
このあと、冷蔵庫の中身が空っぽすぎて怒られた後、一緒に買い物に行きました。
「御幸カノジョできた?」
「出来てたらここにいねーよ」
「わはっ」
「喜んでんじゃねーぞブス」
「喜んでねーしブスじゃねーし」
「せめてその満面の笑みを隠してから言って」
隠すつもりはサラサラない。
「御幸〜〜」
「ん?」
「今度私が日本に帰った時さ、お母さんとお父さんに会ってよ」
「誰の」
「私の」
「……おお」
「か」
「か?」
「……カ、カレシとして……」
「いいよ」
「いいの!?返事ずいぶん軽いけど!」
「その一言を聞きにここまで来たようなもんだからな」
「……うあっ、あの、その〜……」
「うん」
「こ、これからも、よろしく」
「こちらこそ」