村上鋼 メンヘラ










「きさま、うわきしたな……」
俺の彼女はメンヘラである。自分の恋人を形容する言葉としてはあんまりにあんまりかもしれないが、事実なのだから仕方ない。
なまはげも真っ青な鬼気迫る顔で俺の首を絞めにかかる女をなんとかなだめようと試みる。
「落ち着いてくれ。浮気なんてしてない」
「嘘をつくな、女と会ってたろ……」
「今はうちのオペレーターだと何度も……」
「浮気だ!私を捨てるんだ!殺してやる!ころしてやる!」
泣きわめきながら首を締め付けてくる彼女にはほとほと困らされる。常に話を聞かない女だけれど、こうなると全く話を聞かなくなる。何も耳に入れなくなる。
荒船をはじめとする面々に『なんであんな女と付き合ってるんだ?』という問いを何度もされているが、たまに俺もなんでかな、と思う。
「私には鋼しかいないのに!鋼だけなのに!」
「俺にもお前だけだよ」
「嘘っぱちばっかり述べやがって!ころす!ころしてやる!」
大粒の涙をこぼす彼女を抱きしめて、背中を撫でる。首に回された両手のお陰で息がしにくい。何をそんなに泣くことがあるのだろう。何をそんなに不安に思うことがあるのだろう。彼女の考えていることは俺にはよく分からない。
「あいしてるって言えええ」
「ああ、愛してる」
愛してるから、もっと幸せな顔を見せてくれ。