蜘蛛の糸




一人の青年は詐欺師(a swindler)で在り、非常に残忍な男で在ると酷く有名であった。
青年の名前は折原臨也と云う。新宿で情報屋を営んで居た。
その職業柄、人から憎まれ怨まれる事多く、更に彼本来の歪んだ性格も相まって、折原は彼に関わった殆どの人間を敵にまわしている。
そして折原は今まさに、敵へ回った人間に捕われていた。


「嗚呼、良い眺めだなァ折原臨也さん?」


横たわる折原を捕らえた張本人は縄で縛られている彼を、機嫌良く見下ろし、嬉々篭った声を上げた。
そしてぐりぐり、と折原の頭を足で潰すように何度も何度も踏む。


「…」

「おい、何も言わないのかよ?」


何故か今日は何時もの様な彼の饒舌は全くもって発揮されずにいた。
ただただ横たわる不様な彼は唇を噛み締めているだけである。


「あ、もしかして悔しいのか?そうじゃね?散々折原臨也さんに苔にされてたオレに逆に苔にされて!」


男は楽しそうに自分の推論を上げていた。
その間も折原を踏み潰そうとする足の動きは止まらない。


「悔しいんしょ?っぷは、もしかして泣いちゃったりすんのかな!」


さも可笑しげに男は高く笑う。
すると、今まで黙っていた折原がいきなり口を開いた。


「泣く訳無いでしょ、君みたいな相手に何で俺が泣かなくちゃいけないのかな」

「っな…!」


男はいきなり喋った折原に驚き思わず動きを止めた。すかさず折原は男の足の下から逃げ出す。
…何時の間にか縄を解いて。


「おまえ…んで、縄…!?」


男は何時の間にか解かれていた縄に気付き、震える口で精一杯尋ねた。
すると折原は口角を上げ口元を三日月のように歪めた。


「だって俺、神様だから」


目が笑っていない笑顔を浮かべ、折原は立ち上がり身なりを整える。
そしてその間に心の底から面白そうに笑った。


「…何で笑うんだ!ていうか、絶対逃がさねえからな、分かってるだろ、オレがお前を捕まえたんだ、力の差は歴然だろ!」


負け惜しみのように男は折原に向けて叫ぶ。
そんな咆哮を聞いても、尚折原は笑顔のままである。


「嗚呼、そうだね。力の差は目に見えてる。でも俺は逃げるのさ」

「っじゃあ逃げるなんて考えねえ方がいいぜえ情報屋さんよォ!」


折原の言葉を聞き、再度勢いを取り戻した男が扉に近付く折原に襲い掛かる。
自分に襲い掛かって来た男を見て折原は一言。


「…折角チャンスをあげたのに、残念だったねえ」


そう呟いた瞬間に折原の横の扉が何者かによって蹴破られた。
凄まじい轟音と共に、扉は部屋の反対側へ減り込む。


「う、うそ…うそだろ……!?」


扉を蹴破った張本人を見、男はさあっと顔を青くし震え出す。
扉を蹴破った長身の男は、口にくわえた煙草を足元にたたき付けるように落とし、足で踏み潰した。
折原はそんな長身の男にひゅるりと抱き着く。


「だから言ったでしょ?力の差は歴然だ、ってさ」


目を細めて折原は笑う。
男はただ震え、惨めに涙を目に溜める。
そして長身の男が口を開いた。


「手前…臨也を捕まえてどうするつもりだったんだあ…?返答によってはぶっ殺す。まあどんな返答でもぶっ殺すけどなあ…?」


そう言って長身の男は顔に青筋を立て、指をごきりと鳴らす。
その音を聞くだけで惨めに震える男は「ひっ」と後退る。
そんな様子を満足そうに眺めていた折原は長身の男から離れて、また笑った。


「さあて。じゃあ君は俺を縄で縛ってSMっぽいのやった上に、神様の俺が与えたチャンスも無駄にしたからさあ…」


折原は懐からナイフを取り出す。


「彼の有名な哀れな罪人みたくなってみよっか」


折原と長身の男が放つ空気は何物とも比べようも無いくらいにどす黒く重たい物だったが、残酷にそう言い放つ折原の言葉はあくまでも明るく、弾んでいた。







(自分の喜事に酔って)
(人を堕とした罪人は)
(堕ちた人と共に堕ちるべきである)



文:幽歌

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -