\-やがて二人の夜になる-[1]
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「…バニーちゃん?」

薄暗くなった辺りを照らす街灯の下、徐々に近づいて来る人影。
通勤用のパンツスーツに身を包んだ、待ち人。

「ナマエさん…」

その姿に、胸が切なく痛んで。
やっぱりこの人が好きだと、強く思った。

驚いて立ち止まったナマエさん。
逃げ出されたらどうしようかと危惧していたが、それは杞憂だったようで。
先程までより歩調を緩め、ナマエさんはゆっくりと距離を縮めて来た。

「どうしたの?」

僕の目の前に立って、見上げてくる戸惑いを含んだ瞳。

「…昨日のことで、話があります」

ナマエさんは分かっていたのだろう。
小さく頷いただけだった。

その頬が、少し赤い気がして。
もう秋もだいぶ深まってきて、夜は冷える。
こんな所で立ち話は申し訳ないと、この辺りにカフェか何かあるか聞こうとしたら。

「…うち、寄ってく?」

全く予想外の提案に、少したじろいだ。
女性はそう簡単に男を家には入れないものだと思っていた。
特に僕は、昨日彼女に告白した身だ。
何かされるかもしれないという危機感はないのだろうか。
それは、仲間としての信頼の証のようで。
同時に、男として全く意識されていないのかもしれないと、少しだけ傷ついた。

案内された部屋は、マンションの8階にあった。
リビングに通され、寛いでてねとソファを示される。
僕はL字型のソファの短い方に腰掛け、辺りを見渡した。

物が少ないシンプルな部屋。
ソファとローテーブルと、壁掛けの液晶テレビ。
リビングと一体になっているダイニングに木製のテーブルと、揃いの椅子が2脚。
ダイニングの向こうに対面式のカウンターキッチンがあって、ナマエさんが手元に視線を落としながらコーヒーをいれてくれている。
花や置物みたいな装飾は一切ない、至って機能的な部屋。
だけど、白と茶色で統一されたその空間はどこか暖かみがあって。
多分こんな切羽詰まった心境でなければ、きっと寛げたんだと思う。

「お待たせ」

そう言って、マグカップを2つ持ったナマエさんがリビングに戻って来る。

「ブラックでよかったよね?」

ローテーブルに置かれた白い陶器のマグカップ。

「ええ、ありがとうございます」

一口飲めば、苦味と酸味が絶妙なバランスで口内に広がった。
オフィスに備え付けられたコーヒーメーカーのものとは訳が違う。

しばらく、無言でコーヒーを飲んでいると。
先に切り出したのはナマエさんだった。


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