いつまでもこの腕の中に[2]
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あの日から、ナマエはほとんど毎晩俺の家に泊まっていて。
俺たちは、離れていた時間を取り戻すかのようにずっと傍にいた。

今夜も、仕事を終えて共に帰宅した俺の家。
ナマエが作ってくれた飯を二人で食べて、交代でシャワーを浴び。
俺はタオルで髪を拭きつつ、先に行って待っているであろうナマエを追って寝室に足を踏み入れた。

そこで。

「っ、」

いつもならば、ヘッドボードに背中を預けて読み掛けの雑誌を眺めているはずのナマエが。
ベッドの端に浅く腰掛け、俺を見上げていた。
それだけなら、別に構わない。
どこに座って待っていようが、雑誌を読んでいようがいまいが、そんなのはナマエの自由だ。

だが。

「あ、の…」

そう、小さく呟いたナマエは。
下着の上に、俺のワイシャツを羽織っただけの姿だった。

「な、んて格好してやがる!」

思わずそう叫んだのも、無理はなかったはずだ。
しかしナマエは、その身体よりも大きなワイシャツの中で華奢な肩を震わせた。

「…ご、めんなさ…」

口の中で小さく謝って、ナマエが俯く。
別に怒ったわけではない。
謝らせたかったわけでも勿論ない。
俺はゆっくりと近付いて、ナマエの前にしゃがみ込んだ。

「あー…怒鳴って悪かった、謝るな」

下からナマエの顔を覗き込むと、ナマエは恐る恐るといった様子で俺と目を合わせた。

「…怒って、ますか?」
「怒ってねえ、そうじゃねえよ」

ただ、俺にだって我慢の限界というものがある、と。
そう説明しかけた時。

「私には、もう…その、そういうこと、する気にならない、ですか?」

ナマエが、とんでもない台詞を吐いた。

「…………んだと?」

唖然と聞き返した俺の目の前で、ナマエが顔を真っ赤にする。
その目は、今にも泣き出してしまいそうだった。

「他の人、にされた…から、嫌、なのかなって、」
「ば…かやろう!」

不安げに、縋るような目で。
俺を見つめたナマエに、眩暈がしそうだった。

「んなわけあるか!」
「…だって、だって土方さん…何もしてくれな、」

その瞬間、俺の理性はぶっ飛んだ。
何かを言い募る唇を、荒々しく塞ぐ。
頭を引き寄せ、きつく抱きしめ、舌を捻じ込んだ。
それはこの二週間ずっと我慢していた、深い口付け。

気が済むまでナマエの口内を蹂躙して徹底的に快楽を引き摺り出して、ようやく唇を離せば。
蕩けた視線で俺を見つめるナマエと目が合った。

「我慢してたんだよ、」
「…え?」

ナマエを抱き寄せ、その首筋に顔を埋める。

「まだ、怖いんじゃねえかって。そういうこと、まだしたくねえんじゃねえかって」

そう思ったから、手を出さないようにしていたのだ、と。
そう告げれば、ナマエが息を呑んだのが分かった。

「俺がお前を抱くのを嫌がるだぁ?ったく、馬鹿も休み休み言いやがれ。んなわけねえだろうが」
「……汚い、とか、そういうこと、」
「思うわけねえだろうが馬鹿野郎!」

そう言い返せば、ナマエが安心したように息を吐き出したのが分かった。
吐息が俺の耳元に掛かる。

「くそ、分かってんのかお前」
「…何を、ですか?」
「俺はなあ、お前を抱きたくて抱きたくてしょうがねえんだよっ」

その吐息にすら、興奮するのだ。
とんでもない格好しやがって。

「…いい、ですよ」
「っ、」
「土方さん、」

俺から少し身体を離したナマエが、真っ直ぐに見つめてくる。
潤んだ瞳に、ナイトランプの明かりが揺れていた。
俺よりずっと小さな身体に掛かった、白いワイシャツ。
前のボタンが一つも留められていないせいで、薄い紫の揃いの下着が丸見えになっている。
白い膨らみ、滑らかな肌、しなやかに伸びる脚。

「もう、我慢出来ねえぞ」
「はい」
「嫌がっても、やめてやれねえぞ…っ」
「はい」

ナマエが頷いた、その瞬間。
俺はその身体をベッドに押し倒していた。

両手を重ね合わせ、シーツに縫い止める。
見下ろしたナマエは、以前と変わらずに美しかった。

「怖く、ないです」

唇を落とそうとしたその時、囁かれた声。

「それが土方さんなら、何だって、怖くないです」

その言葉は、俺の最後の砦を呆気なく蹴散らした。


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