始まりの朝[4]しばらく、痛いほどの沈黙が落ちた。
やがてそれを破ったのはミョウジだった。
視界の端で、ミョウジが身体を起こすのが見えた。
しかし、このまま服を着て出て行くだろうという俺の予想を裏切って、ミョウジは裸の身体にシーツを巻き直すと俺の側に寄って来た。
そのままベッドに座り込んだミョウジに、どうかしたかと顔を上げれば。
真っ直ぐに見つめてくる眼にかち合い、思わずたじろいだ。
「どうした」
こんな状況でも、やはりこいつに至近距離から見つめられると高鳴る手前の鼓動に呆れつつ、俺はミョウジに問いかけた。
「忘れないと、いけませんか?」
「…あぁ?」
何を聞かれたのか、分からなかった。
ただ、目の前のこいつがやたらと必死な顔をしていることだけは分かった。
「土方さん、今、俺が喋ったことは忘れろって」
「ああ、言ったが」
それがどうしたのか。
いよいよ意味が理解出来ない俺に向かって、次の瞬間その爆弾は落とされた。
「出来れば、忘れたくないんですけど…だめ、ですか?」
その破壊力たるや、壮絶だった。
ベッドの上で、素っ裸の身体にシーツ一枚巻きつけただけの状態で、一体何を言い出すのか。
こいつは男を何だと思ってやがる。
「おま、ばっか野郎。何を言ってやがる!」
思わず怒鳴った。
しかし半分は、こんな状況だというのに顕著な反応をしやがった手前の下半身に向けてでもあった。
焦って布団を抱え込む。
「簡単にンなこと言うんじゃねえ、誤解されんぞ」
これが俺でなかったら、間違いなくこいつは襲われてる。
もう少し警戒心を持つべきだ。
そう諭そうとした俺の言葉は、しかし次の台詞に木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「誤解、して下さい。って言うかあの、誤解じゃないです」
そう言ったこいつの手が、そっと伸ばされて。
俺の頬に触れる。
心臓が、驚くほど大きく跳ねた。
「私、好きでもない人とホテルに行くほど軽い女じゃありません」
それは、どういう意味だ。
そういう意味か。
俺の都合のいいように解釈すんぞ、それでいいのか。
「格好つかない、なんて仰いましたけど。私にとってはどんな土方さんも、格好いいですよ」
それは、俺のなけなしの理性を焼き切るには充分すぎる台詞だった。
頬に添えられた手を掴み、勢いよく引き寄せる。
シーツごとその身体を抱きしめて、その顔を胸板に押し付けた。
「昨日の夜の、続きがしてえ。…いいか?」
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