始まりの朝[2]
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こいつが、入社して俺の部下となってから3年。
ずっと、上司と部下という関係を崩さずにきた。
俺は割と派手に女遊びをしてきた方だが、こいつに関してはどうしても気軽に手が出せなかった。
声を掛けて、引っ掛かれば付き合う、引っ掛からなければそれで終わり。
そんな、いつもと同じ手段は選べなかった。
そうだ。
俺はこいつを、本気で手に入れたかったのだ。
だからこそ、確実に落とせると確信するまでは仕掛けないと決めていた。

俺はまず、職場での信頼関係を築くことに徹した。
そして最近になってようやく、仕事終わりに食事に行くような関係になった。
声を掛ければ二つ返事で了承する、そのくらいには好感を持たれてきた。
だから確かに、そろそろ次のステップに移ろうかとは考えていた。
だが、いろんなもんをすっ飛ばしてこの状況は想定外だ。
せっかく緻密に進めてきた計画が、一夜にして全ておじゃんだ。
どうしてくれる。

今さら後悔しても遅ぇ。
とにかく、この状況をどう打破するか考えなくてはならない。
いつもの、さっさとホテルを出る、は当然却下だ。
そんなことをすれば、こいつに嫌われて終わるのは目に見えている。

もうしばらくすれば、こいつも起きるだろう。
その時に何と言うのが正解か。
とりあえずは謝るのが筋だろう。
俺が謝れば、こいつは何と言ってくるか。
怒るだろうか、泣くだろうか。
どちらも違う気がした。
俺の勝手な想像ではあるが、恐らくこいつは俺を責めないだろう。
代わりにこう言うはずだ。
どうして、と。

「どうしてって、そりゃあ、」

惚れてるからだ。
確かに昔は女遊びを平気でしたが、こいつに出会ってこいつに惚れてからは一度も他の女を抱いてねえ。
今までも別に抱いた女を好きだと思ったことはなかったが、こいつに惚れてからはいよいよ他の女に何も感じなくなった。
どんだけプロポーションのいい女に誘われても、全く興味が湧かなかった。
ただ、こいつだけが欲しかった。

だがこんな形で抱きたかったわけじゃねえ。
こいつのためなら、今まで守ったこともないようなまどろっこしい手順とやらを踏むことも厭わなかった。
ちゃんと気持ちを伝えて、こいつの気持ちも聞いて、それから事に及びたかった。
こんなはずじゃなかったのだ。

理由を聞かれたら、素直に答えるべきだろうか。
惚れているから抱きたかったと、言うべきだろうか。
それともここは何とか誤魔化して、もう一度距離を詰め直してから後日改めて伝えるべきだろうか。

しかし何の結論も出ていないまま、俺の思考は突然聞こえてきた女の笑い声に停止した。
俺は反射的にミョウジの方を見た。
そして、今日二度目の衝撃的な事実に、俺は硬直した。


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