触れたい背中[1]
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R-16


「ああ、こんな所にいたのかミョウジ君」

夕餉の片付けを終え、中庭でぼんやりと月を眺めていたナマエの背に掛けられた声。
ようやく見つけた、と言わんばかりの口調にナマエは振り返った。
そこには、ほっと安堵したような表情で佇むこの組織の長がいた。

「近藤さん。どうされました?」

こんな夜更けに、局長ともあろう者が人探しなど珍しい。
隊士ではないナマエに火急の用があるとも思えず、彼女は首を傾げた。
すると近藤は、その厳つい眉の尻を下げて情けない表情を浮かべた。

「それがなあ…ちょっと君に頼みたいことがあるんだが…うむ」

そこに、いつもの浪々とした声はなく。
歯切れの悪い口調に、ナマエはますます困惑した。
何か、あったのだろうか。

「私で宜しければ、何でもお手伝い致しますが」

ナマエがそう言って促すと、近藤はそれならばと話し始めた。

「実はなあ、トシのことなんだが…」

トシ、その名前に、ナマエは微かに眉を寄せた。
それは、新選組副長である土方の愛称である。

「このところかなり働き詰めでなあ。俺がトシに負担をかけてしまっているのは分かってるんだが…」

そう言って、近藤は頭の後ろを掻いた。
新選組の頂点は言うまでもなくこの近藤なのだが、彼は謂わば象徴的な存在であって、実質隊の指揮権を有しているのは副長である土方だ。
その土方は新選組第一主義の仕事人間で、手を抜くということを知らない堅物。
そんな彼を心配しているのは近藤に限らなかった。
かく言うナマエも、常にその身は案じている。
しかし当の土方は周りの心配など物ともせず、日々休む間もなく文机に向かっている。

「今日も非番のはずだったんだが、朝からずっと部屋に篭りっぱなしでなあ。休めって言ったんだが、聞いてもらえないんだ」

局長命令だとも言ってみたが取り合ってもらえなかったと、近藤は情けない顔で告白する。
ナマエはそのやり取りが手に取るように分かって、思わず微笑んだ。

「仕様のない人ですねえ」

ナマエはそう呟くと、自分からも土方に休むよう伝えると約束してその場を後にした。



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