理由は君でした[2]
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体内に埋め込まれる、まるでそこだけが別の生き物であるかのような熱い塊。
先端から徐々に入り込んでくるその深度と連動するように、秋山の表情から余裕が消えていく。
眉を顰め、歯を食い縛っているのか唇を引き結び、頬を歪める。

「……ひ、ぅ………ン、ぁ………っ」

圧倒的な熱量と押し広げられる痛みに声を漏らせば、秋山は少し申し訳なさそうな顔をした。
同時に、片方だけ覗く眼睛が深く輝く。
劣情と興奮を如実に表した瞳に射抜かれ、腰の奥が甘く痺れた。

「すみま、せん……っ」

多分それは、本心なのだと思う。
口先だけの謝罪ではないのだろう。
ナマエが質量に慣れる間もなく開始された抽送。
秋山はそれを詫びながら、でも腰の動きを止めることはない。
止められない、と言うべきか。
腰を打ち付けながら、泣き出しそうに顔を歪める。
その表情が歪むほど、動きは激しくなっていく。
まるで、自らの中に住まう獰猛な獣を手懐けられずに振り回されているような、そんな印象を受けた。

「ん、ぁ……っ、あ、ぅ……、あ、きや、ま……っ」

揺さぶられながら辛うじて口にした単語に、秋山が希うような視線を向けて来る。

「……ひ、ぅ……ン、あ、……ひ、もり…ぃ……っ」

下の名で呼べば、秋山が幸せそうに目を細めた。
下腹部で、ぐん、と熱量が膨れ上がる。

「ば、か……っ」

呼吸さえ困難な圧迫感に思わず悪態を吐けば、秋山が引き攣った苦笑を浮かべた。
そのまま顔を寄せられ、唇を重ねられる。
ナマエが苦しい時に更に呼吸を奪おうとするのは、秋山の癖だった。

「……は、……っ、ナマエさ、ん……そんな、締めないで、ください……っ」

サディストなのかマゾヒストなのか、紙一重だ。
ナマエの中で秋山は後者寄りだが、だからこそその逆にもなれるということだろう。
やめろ、と言われると反抗したくなるのは人間の性なのか。
ナマエは意図して下腹部に力を込め、中に埋まった熱芯を締め付けた。

「く、……ぅ……」

表情を歪めた秋山が呻く。
それを見上げ、ナマエは喉の奥で笑った。

「あなたというひとは……っ」

短く吐き捨てた秋山が、ナマエの足を持ち上げて自らの肩に乗せる。
より深くなった繋がりに、ナマエは息を詰めた。
そのまま遠慮容赦なく攻め立てられ、あられもない嬌声が唇から溢れる。
ナマエの太腿に添えていた手を持ち上げた秋山が、乱雑に前髪を掻き上げた。
普段は隠されている右目が晒され、情欲に濡れた双眸がナマエを見下ろす。

実は、この瞬間が、いちばん好きだ。

常は誰も見ることのない右目が、ナマエだけに見せられる。
ナマエだけを視界に映している。
それはきっと、優越感だった。

呻き声混じりの熱っぽい呼吸を短く繰り返して、汗を滴らせて、必死に快楽を追っていく秋山の顔は、らしくないほどに男臭い。
職務中の涼しげな表情とも、ナマエに見せる蕩けるような笑みとも異なる、この瞬間だけの顔。
がむしゃらに叩き付けられる熱を受け止めながら、目を閉じないように秋山を見上げた。
ナマエを貫く双眸に視線を合わせる。
それに気付いた秋山が、微かに眦を下げた。

「あ、あ……っ、ン、……ひ、もり……っ」
「ナマエ、さん……っ」
「ね、……っ、ぁ……、キ、ス……っ、ひもり、」

単語だけで、口付けを強請る。
一瞬目を瞠った秋山が、次いで幸せそうに破顔した。
肩から足を外した秋山が、そのまま上体を倒す。
ナマエは汗ばんだ背に両手を回し、降ってきた唇を受け止めた。
腰を揺らめかせながら、何度も唇を重ねてくる。
唇と下肢から淫靡な水音が響き、思惟の奥が霞んだ。

「ひ、もり……ん、……っ、ぁ、あ、」
「なん、ですか……っ、ナマエ、さん?」
「……ん、ン……ぁ、……き、もち……っ」
「ーーっ」

零した言葉に、秋山が息を詰めた。
そう言われることが好きだと、知っている。
だからわざと、口にする。
でも、それは決して嘘ではなかった。
気持ちいい、そう教えると、秋山が本当に嬉しそうに、安堵したように笑うから。
言葉にすることが一つの安心材料になるのならば、それを伝えることは吝かではない。

「……おれ、も、」

顔を上げた秋山が、至近距離でナマエを見つめて泣き出しそうに微笑む。

「俺も、気持ちいいです」
「……うん」

ああ、この顔の方が愛おしいかもしれない。

愛してます、と言った直後に再び唇を重ねてきた秋山の背を抱き締めて、ナマエは目を閉じた。
秋山の唇を甘噛みして、その上を舌で慰める。
汗ばんだ手が、ナマエの頬を撫でた。
秋山の掌の皮膚は、全体的に硬い。
幼少の頃から竹刀を握り続け、今でも毎日欠かすことのない剣術の稽古。
そして責務を遂行するために佩いたサーベル。
たこを何度も潰して出来る、硬い皮膚だ。
きっと、これは綺麗な手ではないのだろう。
でも、ナマエはこの手が好きだった。
積年の努力と、強さの証だ。

秋山の背から手を離し、頬に添えられた秋山の手を取った。
口付けを解いた秋山が、不思議そうに見下ろして来る。
その視線を感じながら、ナマエは秋山の手を少し引いて口元に寄せると、そのまま指の腹にキスをした。

「あきやまの手、好き」
「………え?」

きょとり、と目を瞬かせた秋山が、一拍後にぼんっと音を立てるような勢いで顔を真っ赤にする。
狼狽する様子を眺めながら、ナマエは秋山の人差し指を唇で食んだ。
そのまま口内に招き入れ、舌を絡める。
短い爪、しっかりした関節、硬い皮膚。
指の付け根まで、まるで口淫のようになぞれば、ナマエの上で真っ赤になった秋山が震えた。
それは羞恥か、それとも快楽か。
恐らく両方だろう、と勝手に結論付けながら、わざとらしい音を立てて指から唇を離した。

「……手、だけですか……?」

唾液に濡れた指先をナマエの下唇に押し当てた秋山が、掠れた声を吐き出す。
知ってるくせに、とナマエは内心で笑った。

「んーん。氷杜だから、好き」

顔で選んだわけではない。
外見の何が好きだったわけでもない。

でも、いま、それが秋山氷杜であるというただそれだけの理由で、ナマエは秋山を構成するもののひとつひとつが愛おしい。

「待って下さい……、ほんと、あの、ちょっと待って下さい。俺……っ、泣きそうです……」

頬や眦を朱に染めたまま情けないことを言い出した秋山を見上げ、ナマエは微かに笑うとその指先に噛み付いた。





理由は君でした
- だから、全てにキスを贈る -





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