「 1 」
もともと頭の回転は遅い方だった。
異常事態に遭うと、頭が停止してしまう。真っ白。うん、そう、今、まさにそんな状態。
いや、違う。そう、これは、妄想だ。
「やれやれだ…」
私は自分の顔を両手で覆った。
腐女子のサガゆえ、私は一日26時間くらい妄想をして生きてきた。とくにスレナルが好き過ぎて四六時中スレナルのことばかり考えており、妄想が行き過ぎて最近はついに幻覚を見るスキルまで身につけた。つねに自分の隣にスレナル(の幻覚)を召喚していて、スレナル(の幻覚)と一緒に下校したりして「うはww私テラリア充wwぶほっw」と(頭が)とても幸せな日々を送っていた。
そして。
「お前、誰だってばよ?」
私の目の前で、その金色の可愛らしい生き物が、コテンと首を傾げて、
私は声にならない奇声を発した。
何、この、可愛いやつ、
この子、やっぱり、
「な…ナ…な…な…」
「菜?」
「な…なる…ナル…ナルト…ですか?!」
「そうだってばよ…知ってて俺ん家入って来たんじゃねぇの?」
ぶはっ!!!
ナルトさんの訝しげな表情!いただきました!!あざっす!!!!
つか私ナルトと会話しちゃったぎゃあああああああああ死ねるううああああああ
我ながら怖いわ…この妄想力…
かつてないリアリティをもって、私の妄想が空間となって私の眼前に広がっていた。
噴き出しそうになっている鼻血を手で抑えつつ、私は周りを見渡した。
聖地。
そう。私が聖地と呼んでいる場所。ナルトの部屋。
私が知っている聖地が、しかも、3次元になっている。
床は巻物などで散らかっており、机の上には賞味期限切れの牛乳。観葉植物。
そんで、目の前には、天使。
大きな空色の瞳が、私を覗き込んでいる。
ナルトの衣装から鑑みるに、この時系列は原作始まる前かな? ゴーグルつけてるし。
空気の匂い。
夏だったはずなのに、涼しげな気候。
視覚、聴覚、嗅覚、などなど、
まるで現実みたいだ…。
感動とともに目の前の天使の顔をジロジロと眺めていると。
その金色の天使は、はぁ、と溜息をついて、腕を組んだ。
「お前、誰? って、おれ、聞いてるんだけど」
「え?」
おかしいな。私の妄想だったら、ナルトの下僕設定とかクラスメイト設定とかだから、初対面設定ではないはずなんだけど…。
いつも(の妄想)と違う展開に戸惑いつつ、私はおずおずと自己紹介をする。
「私は…楓です。結城楓…18歳です…」
子ども相手に敬語になってる…と自分に呆れる。
すると、ナルトはムスッとした顔になる。(それもものすごく可愛いですうっかりペロペロしたくなるくらい可愛い天使です)
「18? どう見ても12か13かそこらだろ。楓、嘘付きは泥棒の始まりだってばよ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってください」
「何?」
「あ、あの、その竹内ボイスで私の名前もっかいお願いします!!!!」
「は?」
「あ、あと、できれば、ちょっとそのフワフワの髪をナデナデさせていただいて、そしてそのご尊顔の可愛らしい三本線を指でさわさわさせていただいてもよろしいでしょうか?!」
「…」
うわあああああヤバイダメだ
いよいよナルトが私を見る目がまるで性犯罪者を見るような目になってきている…
お…落ち着け…私…落ち着け!!!
胸に手を当て、深呼吸していると。
ふいに、ナルトがチラリと窓の外を見やる。
私もつられて窓を見てみる。
静かで平和な空。きれいな青空が広がっている。この風景もとてもリアルだ。私の現実世界の、環境汚染された東京の汚い空とは違う。抜けるような青。こんなにきれいな青は初めて見た。
ナルトは窓の外を見たまま、静かに呟いた。
「楓、」
「あ、はい、とうとうわたし通報される感じですか?」
「ちょっとこっち来い」
「え? 触ってもいいんですか?」
「早く」
「?」
事態が把握できずにいると、ナルトは舌打ちし、
私へと一歩踏み出してくる。
私へ手が伸びてくる。
それはとても素早い行動だったにもかかわらず、とてもゆっくりと、スローモーションに見えた。
焦がれてやまないナルトが、私へ近づいてくるんだ。
腕を掴まれる。
ーー掴まれる!?
触覚がある。
掴まれている感覚がある。
ーー妄想なのに!?
幻覚…じゃない?
ここからの時間の経過は早かった。
一瞬だった。
「危ないってばよ!」
グイと体を引かれ、バランスを崩す。
刹那、ヒュンと空気を切る音が聞こえる。
私がついさっきまでいたところに、こぶし大の石が投げ入れられていた。
「な…」
「…」
ナルトは窓を閉めてから、座り込んでいる私を見下ろす。
窓からの光を彼は背中に浴びており、私からは逆光で彼の顔があまり見えない。
「どうしてこんなところに来たのか分からないけど、怪我したくなかったら早く家に帰れってば。」
「…むしろここは私ん家じゃないの? 私は聖書(NARUTOのコミック最新刊)を胸にいだいたまま自室のベッドで横になっていたはずだけど…」
「何を言っているんだってばよ、楓。ここはどう見ても俺の家だろ、寝ぼけてるのか?」
「…今、西暦何年? 今の総理大臣は誰?」
「セイレキ? ソウリダイジン?」
「あ、きいといてなんだけど、私も今の総理大臣知らないわ。毎年 代わるからなぁ」
「いいからとっとと帰れってばよ。」
私の中で、ある推測がむくむくと存在を大きくしていた。
推測から確信に。
でも、それはあまりに虫の良すぎる話で、にわかには信じられない。
信じたい! 信じたいけど、こんなことが現実にあって、私は許されるのだろうか?
全国のNARUTO好きの皆様の夢を、私が実現してしまったのかもしれない。
歓喜による震えが止まらない。
それはまるで武者震いにも見える。冷静になるにつれて、しかし、逆に心臓は鼓動を速くしていく。
まだ、これがリアルな妄想だ、という可能性も捨て切れない。
私がガチでスレナル好き過ぎて精神病になってしまい、現実と妄想の区別もつかず、ついに触覚視覚を始め五感すべてを支配されてしまったのかもしれない。本来、病理学的な意味での『妄想』とは、そういうことをいうのだ。
「…妄想でもいい…この世界に存在できるのなら…」
そんな言葉が、ぼそりと口から漏れた。
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異常事態に遭うと、頭が停止してしまう。真っ白。うん、そう、今、まさにそんな状態。
いや、違う。そう、これは、妄想だ。
「やれやれだ…」
私は自分の顔を両手で覆った。
腐女子のサガゆえ、私は一日26時間くらい妄想をして生きてきた。とくにスレナルが好き過ぎて四六時中スレナルのことばかり考えており、妄想が行き過ぎて最近はついに幻覚を見るスキルまで身につけた。つねに自分の隣にスレナル(の幻覚)を召喚していて、スレナル(の幻覚)と一緒に下校したりして「うはww私テラリア充wwぶほっw」と(頭が)とても幸せな日々を送っていた。
そして。
「お前、誰だってばよ?」
私の目の前で、その金色の可愛らしい生き物が、コテンと首を傾げて、
私は声にならない奇声を発した。
何、この、可愛いやつ、
この子、やっぱり、
「な…ナ…な…な…」
「菜?」
「な…なる…ナル…ナルト…ですか?!」
「そうだってばよ…知ってて俺ん家入って来たんじゃねぇの?」
ぶはっ!!!
ナルトさんの訝しげな表情!いただきました!!あざっす!!!!
つか私ナルトと会話しちゃったぎゃあああああああああ死ねるううああああああ
我ながら怖いわ…この妄想力…
かつてないリアリティをもって、私の妄想が空間となって私の眼前に広がっていた。
噴き出しそうになっている鼻血を手で抑えつつ、私は周りを見渡した。
聖地。
そう。私が聖地と呼んでいる場所。ナルトの部屋。
私が知っている聖地が、しかも、3次元になっている。
床は巻物などで散らかっており、机の上には賞味期限切れの牛乳。観葉植物。
そんで、目の前には、天使。
大きな空色の瞳が、私を覗き込んでいる。
ナルトの衣装から鑑みるに、この時系列は原作始まる前かな? ゴーグルつけてるし。
空気の匂い。
夏だったはずなのに、涼しげな気候。
視覚、聴覚、嗅覚、などなど、
まるで現実みたいだ…。
感動とともに目の前の天使の顔をジロジロと眺めていると。
その金色の天使は、はぁ、と溜息をついて、腕を組んだ。
「お前、誰? って、おれ、聞いてるんだけど」
「え?」
おかしいな。私の妄想だったら、ナルトの下僕設定とかクラスメイト設定とかだから、初対面設定ではないはずなんだけど…。
いつも(の妄想)と違う展開に戸惑いつつ、私はおずおずと自己紹介をする。
「私は…楓です。結城楓…18歳です…」
子ども相手に敬語になってる…と自分に呆れる。
すると、ナルトはムスッとした顔になる。(それもものすごく可愛いです
「18? どう見ても12か13かそこらだろ。楓、嘘付きは泥棒の始まりだってばよ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってください」
「何?」
「あ、あの、その竹内ボイスで私の名前もっかいお願いします!!!!」
「は?」
「あ、あと、できれば、ちょっとそのフワフワの髪をナデナデさせていただいて、そしてそのご尊顔の可愛らしい三本線を指でさわさわさせていただいてもよろしいでしょうか?!」
「…」
うわあああああヤバイダメだ
いよいよナルトが私を見る目がまるで性犯罪者を見るような目になってきている…
お…落ち着け…私…落ち着け!!!
胸に手を当て、深呼吸していると。
ふいに、ナルトがチラリと窓の外を見やる。
私もつられて窓を見てみる。
静かで平和な空。きれいな青空が広がっている。この風景もとてもリアルだ。私の現実世界の、環境汚染された東京の汚い空とは違う。抜けるような青。こんなにきれいな青は初めて見た。
ナルトは窓の外を見たまま、静かに呟いた。
「楓、」
「あ、はい、とうとうわたし通報される感じですか?」
「ちょっとこっち来い」
「え? 触ってもいいんですか?」
「早く」
「?」
事態が把握できずにいると、ナルトは舌打ちし、
私へと一歩踏み出してくる。
私へ手が伸びてくる。
それはとても素早い行動だったにもかかわらず、とてもゆっくりと、スローモーションに見えた。
焦がれてやまないナルトが、私へ近づいてくるんだ。
腕を掴まれる。
ーー掴まれる!?
触覚がある。
掴まれている感覚がある。
ーー妄想なのに!?
幻覚…じゃない?
ここからの時間の経過は早かった。
一瞬だった。
「危ないってばよ!」
グイと体を引かれ、バランスを崩す。
刹那、ヒュンと空気を切る音が聞こえる。
私がついさっきまでいたところに、こぶし大の石が投げ入れられていた。
「な…」
「…」
ナルトは窓を閉めてから、座り込んでいる私を見下ろす。
窓からの光を彼は背中に浴びており、私からは逆光で彼の顔があまり見えない。
「どうしてこんなところに来たのか分からないけど、怪我したくなかったら早く家に帰れってば。」
「…むしろここは私ん家じゃないの? 私は聖書(NARUTOのコミック最新刊)を胸にいだいたまま自室のベッドで横になっていたはずだけど…」
「何を言っているんだってばよ、楓。ここはどう見ても俺の家だろ、寝ぼけてるのか?」
「…今、西暦何年? 今の総理大臣は誰?」
「セイレキ? ソウリダイジン?」
「あ、きいといてなんだけど、私も今の総理大臣知らないわ。毎年 代わるからなぁ」
「いいからとっとと帰れってばよ。」
私の中で、ある推測がむくむくと存在を大きくしていた。
推測から確信に。
でも、それはあまりに虫の良すぎる話で、にわかには信じられない。
信じたい! 信じたいけど、こんなことが現実にあって、私は許されるのだろうか?
全国のNARUTO好きの皆様の夢を、私が実現してしまったのかもしれない。
歓喜による震えが止まらない。
それはまるで武者震いにも見える。冷静になるにつれて、しかし、逆に心臓は鼓動を速くしていく。
まだ、これがリアルな妄想だ、という可能性も捨て切れない。
私がガチでスレナル好き過ぎて精神病になってしまい、現実と妄想の区別もつかず、ついに触覚視覚を始め五感すべてを支配されてしまったのかもしれない。本来、病理学的な意味での『妄想』とは、そういうことをいうのだ。
「…妄想でもいい…この世界に存在できるのなら…」
そんな言葉が、ぼそりと口から漏れた。
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