「 とある上忍の話1 」

**とある上忍目線



 その日の上忍待機所は、突如下界に咲いた高嶺の花のせいで、異常な空気に包まれていた。

 何も考えず平素の習慣で「おはようございまーす」と待機所のドアを開け放った1秒後に、ぼくは後悔していた。
 部屋の奥に一人長い脚を組んで座っている青年が、目に飛び込んできたからだ。
 燦然と輝く金色の綺麗な髪、暗部面の隙間から見える青色の瞳、里で彼しか使っていない唯一の狐の面。そして、彼の纏う重く怜悧な空気。
 ――ううあああ、あ、あれは、幻といわれる、暗部総隊長の狐空様じゃないか!
 そう認識した瞬間、ぼくは光の速さで頭を下げていた。「お疲れ様ですッッ!」

 冷や汗が流れる。お辞儀したまま床を見つつ、頭の中の混乱を鎮めようと努力する。
 まず、どうして暗部がこんなところにいるんだよ、という疑問。
 そして、なにより、なんであんなすごい人が自分の目の前にいるんだという驚愕。どんなに難しい任務でも必ずこなし、成功率10割をキープしているという里一、もしかしたら世界一の、最強の忍である。非情で、残忍で、怜悧で、一晩で100人以上の忍をたった独りで殲滅させたという伝説を持つ。その姿を見た者の命はないとまでされる…。
 ――ど、どうして、最強の忍びが…ぼくの前に…? ほ、本当に、狐空様なのか…? あの伝説の…?
 お辞儀を続けたまま、チラリ、と覗き見る。
 狐面。間違いない。この里の暗部はみんな暗部面といって動物の顔を模ったお面をしているが、狐の面は誰も使わない――総隊長を除いては。
 ――マジか…! てっきり都市伝説だと思ってたけど、マジに実在したのか…。驚きだわ。
「(しかし…、)」ぼくは彼の姿を頭の上から足の先まで眺める。「(あの伝説の最強の忍びが、こんな青年というか子どもだったとは…。)」
 見積もって、だいたい17から18だろう。未成年じゃないか。ぼくはてっきり30くらいだと思ってたよ…。

 現在の待機所の様子は、こうだ。
 部屋の一番奥(といっても狭い部屋だが)に狐空さまが脚を組んで座っていて、で、他の皆は彼となるべく距離を置くように避けて座っている。つまり、皆ドア側に密集している。そりゃあそうだよな…。あんなすごい人の近くになんか座れねぇよな…。高嶺の花が下界に突然咲いたんだもんな…皆離れて見るに違いない。おかげでここの空気は完全に殺伐としている。

 頭を下げたままそんなことを思っていたら、
 ふと、声をかけられた。
 低いとも高いともいえぬ、青年の声。
「お前もお疲れさん」
 ――え?
 顔を上げると、(面越しだが)伝説の総隊長様と目が合った。
 一気に頭が熱くなる。
「(あああうあああああうあああ)」
 興奮で頭が沸騰する!
 あの、伝説の、最強の忍びが、ぼくに、挨拶を!


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