「 屋上にて 」

主人公:アカデミーのバイト。荷物とか運んだりする、先生のお手伝い。


 屋上に着くと、やはり奴が横臥していた。

 頭の後ろに両手をおき、空を見上げている。
 後ろできつく結わえた黒髪、性格とは裏腹に鋭い双眸。
 奈良シカマル。

 彼は俺の方を見もしないで「よお」と声をかけてきた。

「また来たのか。アカデミーのバイトって結構ヒマなんだな。給料泥棒って言葉を知っているか?」

「授業をサボタージュして、立入禁止の屋上に寝転ぶあんたに言われちゃ、オシマイだな」

「言えてらぁ」

 そう言って欠伸をする彼の横に、俺も横たわる。

 ごろりと身体を倒し、空を眺める。蒼く広大な空。もとの世界の空よりずっと蒼い。  背中にコンクリートの冷たさを、横にシカマルの息遣いを感じる。
 この屋上は、時間の流れが違う気がする。下界よりも、ゆっくりと流れる。それはまるで俺らが世界から切り離されてしまったような錯覚を受ける。骨の髄まで理系の俺には珍しい思考だ。ゆるやかに流れる雲をながめ、心地よい風に頬を撫でられる。

「なぁ、」

 シカマルが声をかけてきた。珍しい。こうして横臥している間は、たいてい会話はなかったのに。

「なに、シカマル」言いつつ、彼に顔を向けた。

 彼はまだ空を見ていて、そのまま開口した。

「まだお前が女だってこと、あいつにはバレてないんだよな?」

 何気ないふうな質問。

 あいつって、ナルトのことだよな?

「バレていないよ。あいつ、意外にこういうことにはニブイんだ。俺のことを男だと信じて疑わない」

「そうか。‥‥なぁ、さらし、取ったらどうだ? 呼吸が苦しいんだろう。ここには俺しかいないんだから、授業始まるまで外しておいたほうが楽なんじゃねぇのか」

「そうだな。あんたは気遣いのできる優しい男だ。じゃ、お言葉に甘えて外させてもらうよ」

 軽い調子で言い、俺は上体を起こした。ベストを脱ぎ、横に畳む。ワイシャツのボタンに手をかけると、シカマルがそっぽを向いた。山を眺めるフリをして、俺の脱衣から目を逸らしたようだ。

 ――可愛いやつ。
 なんとなく面白くなった俺は、揶瑜するような口調で言う。

「俺は(心は)男なんだから、べつにいまさらあんた相手に恥じらいなんてもたねぇよ。気をつかってくれなくていいぜ?」

「めんどくせーことグダグダ言ってんじゃねぇよ。お前は女なんだから、その辺ちゃんと自覚をもて」

「俺はあんたに男として見てもらいたいんだけど」

「お前って結構性格悪いよな」

「なんで?」

「いいから、さっさとさらしを外して呼吸を楽にしろ」

「はいはい」

 生返事をし、ワイシャツを脱いだ。隣に丁寧にたたんで置く。
 乳房を押し潰す、固い白布。胸の凹凸を隠すために着用しているそれを、ほどく。楽になる呼吸。

「この身長にしては、俺、胸大きいから、さらしはキツイんだよな」

「そうかよ」

「うん。あ、触ってみるか? あんたなら特別に許してやるよ」

「‥‥‥」

「冗談だ」

「当たり前だ」

 ぶっきらぼうな彼の返事に笑みを漏らし、俺はまたワイシャツを羽織った。

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