「 付き合ってませんよ 」

「え? お前ら、付き合ってるんだろ?」
 さも当然のことのようにあっけらかんと放たれたその言葉に。
 両者の反応は対極だった。

 自前の金糸の髪を梳かれていたナルト少年は、しばしの硬直の後、顔を真っ赤にして反論した。「そ、そんなわけないってばよ! 第一、俺は男、裕也兄ちゃんも男だってばよ!」
 それに対して、目の前の少年の金糸を梳きながら、余裕の笑みを浮かべた裕也少年。「はっはっは、それもいいな。なぁ、うずまき、」上体をかがめ、ナルトに目線を合わせる。悪戯げに微笑む。低い声。「おれたち、付き合っちゃおうか?」
 付き合っちゃおうか、と、本気だか冗談だか分からない声音に。
 からかわれている怒りか羞恥からか、耳まで赤らめるナルト。「そんなのムリ! ノーセンキューだってばよ!」
「はっはっは、振られちまったぜ、ショックだ〜」そう言って、裕也は大してショックなど受けていない(むしろどうでもよさそうに)、キバ少年へ向き直った。ニコッと笑む。「ってことだ、キバ。なんでおれたちが付き合ってるとか軽く正気を疑うレベルの認識をしちゃったのか知らないけど」

 放課後のアカデミーの教室にて。
 キバは赤丸を抱きかかえながら、まだ納得していないように首を傾げた。「う〜ん、お前らやたら仲良いから、絶対そうだと思ったんだけどなぁ」
 そんなわけないだろー!とプリプリ怒りながら、ナルトは演技の仮面の下で毒づいた。
 ――仲良さそうに見えたら付き合ってることになるのか。その短絡的な発想のできるお前の単純な頭が羨ましいぜ!
 裕也も、ニコニコしながらもキバに反論する。「なんかねー、おれらが付き合ってるんじゃないかとか一部の特殊な女の子たちが噂してるの聞いたけど、どうしたらそういう結論になるのかはなはだ疑問だな〜! そりゃ、うずまきが女だったら付き合ってもいいさ。本気で。でもね、おれらは男なの。一応確認しとくけど、普通、男と男はね、付き合わないんだよ?

 怒りを押し殺した裕也の反論に、キバはしれっと返事した。
「そりゃ知ってるよ」
「「じゃあなんで!?」」
「いや、だって、」
 チラッと裕也に視線をくれてから、キバは覗きこむように裕也の目を見た。「確かめていいか?」

 野性的な切れ目の双眸に覗きこまれた裕也は、目をぱちくりさせてから、よく分からないうちに「いいよ」と返事する。
 するとキバはぐいと顔を近づけてきた。
 裕也の露出された首筋に顔をうずめる。
 3人を遠巻きに見ていた女子たちからキャーと悲鳴が上がる。
 あまりに突然のことに硬直した裕也とナルトの前で、キバは顔を裕也の耳側へと動かす。首筋には彼の熱っぽい吐息。裕也の頬にキバの髪が触れる。シャンプーのにおい。キバの鼻のてっぺんが首筋に当たり、くすぐったさに裕也は目を細めた。「んっ…ふぅ、キバぁ、くすぐったいんだけど、」
 その裕也の熱を帯びた甘ったるい声でハッと覚醒したナルトは、すぐさまキバの肩を強く掴み、引き離す。「おい、キバ、何やってるんだってばよ、」

 引き剥がされたキバは、しかし、動揺したナルトとは反対に、真顔で、至極落ちついていた。
 冷静に言う。「やっぱり、いい匂い。臭わない」
「なにが?」
 訊かれ、キバは裕也へ視線を移した。「そりゃ、男と男は付き合わねぇよ、それくらい俺でも分かる。でも、」キバは、真っすぐに、裕也を見据えた。




「お前からは男の臭いがしない」





 正直、ドキリとした。
 
 ナルトも裕也も、内容は違えど、内心衝撃を受けた。
 
 2人とも、顔はポーカーフェイスを貼り付けてはいるが、内心は動揺していた。
 裕也は、「(しまった、ばれたか!?)」と。
 ナルトは、「(そんなことがあってたまるか、)」と。

 ナルトレベルの上級の忍びになると、人をチャクラで判断する。
 相手の体内を流れるチャクラの性質を正確に把握できる。そこからあらゆる情報を入手できる。性別、強さ、気質、など。上級になればなるほど情報の精度が増す。
 だから男女の性別も、パッと見の外見よりも、ナルトは正確な情報を知れた。――裕也のチャクラの流れは、完全に『男』のものだった。だから、裕也は男だ。女のはずがない。

 それに。
 ナルトは自身の胸に手をあてた。
 苦いものを飲み込むように、ゆっくりと言葉を発する。
「――こいつが、女なんて、困る。……ってばよ」

 同性だから踏みとどまれるものが、ナルトにはあった。
 裕也にしたいことがある。裕也としたいことがある。でも同性だから踏みとどまれた。

 ――もし、異性だったら、

 俺は止まれないかもしれない…

 先程の裕也の鼻にかかった甘ったるい声を思い出し、ナルトは全身に電力の走った心地がした。元々色香のある裕也の声が、さらに妖艶で倒錯した性的な魅力を孕んでいた。

 だからナルトは挑発げに笑んだ。
「こんな声の低くて男前で強い女がいてたまるかってばよ。もしこんな奴が女だったとしても、おれは願い下げだってばよ! 絶対に、絶対にだ!」

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