「 親友の仮面の狼 」

 自分が汚い存在になってしまったようだ。

「この世界で、あんたがおれのいちばんの友達だ!」

 そう言ってきれいに笑う無垢な彼女に、シカマルは無理やり貼り付けた『友達の笑み』を返した。「ああ、そう」と。
 彼女は自分が男であると思っており、シカマルにも男として接してもらうことを望んでいる。まあ、そりゃそうだ。向こうの世界では17年間もずっと男だったわけだから、突然身体だけ女になってしまって、心も女になるはずがない。

 一番つらいのは裕也自身である。
 そう思って堪えているが、シカマルもまた、つらかった。

 屋上で、蒼穹の下、
 今日は特別天気がいいね、と、純粋無垢な汚れの無い笑みを向けてくる彼女を、
 シカマルは汚い目で見ていた。

 こいつが女だと知っているのはおれだけ。
 男として振舞っている彼の、窮屈なサラシの下には、彼の細さからは考えられない大きさの豊満な乳房が隠れていることを知っているのは、おれだけだ。
 こんなにこいつが気を許しているのも、おれだけだ。
 こいつは、おれだけなんだ。

 長い睫毛を震わせて、ふふふ、と微笑む彼女を、シカマルは脳内で汚していた。
 以前はこんなことなかったのに。
 最近は止められなくなってしまった。
 こんなにきれいで純真な子を、おれは、劣情に染まった汚い目で見ている。
 おれを友だと疑わない彼女を、おれは別の目で見ている。
 友の振りをして近づいて、親友というポディションをちゃっかりゲットし、そこに安住しつつ、内実では性欲の対象として見ている。
 ――おれは最低な奴だ。
 自己嫌悪に呑まれながらも、彼は彼女を色の籠った眼で見ることをやめられなかった。

 裕也は、シカマルの隣で、無防備に横臥し、空を眺めている。
 シカマルも、空を眺める振りをして、裕也を見ている。
 裕也の明るい茶色の髪がサラサラと風に靡いており、その風に乗って彼女の馥郁たる甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。
 シカマルの前では胸の窮屈なサラシを外しているので、彼女の膨らんだ乳房が薄いシャツの下で存在を誇示しているのを無視できない。つい、眼が行ってしまう。「いつも巻いているのは窮屈だろ。おれの前では外しとけよ」と、あたかも彼女自身のために提言したように言っといて、実は100%シカマル自身のためだった。サラシに潰されていない彼女の胸が見たい、ただそれだけのために言った。最低な奴だ。でも、彼女はそんな彼の企みも知らず、それはそれは汚れの無い綺麗な笑みを向けてきて、「ありがとう、あんたは気遣いのできる優しい男だ」とほほ笑んだ。

 ――知っているか、裕也。お前が親友だと信じて疑わない男は、お前を性欲の対象として見ているんだぜ。
 家で裕也をオカズに抜いた。
 何度も妄想で組み敷き、無理やり犯した。
 おれは男だ、やめろ! とか、 シカマル、あんたは親友じゃないのか!? とか喚く裕也の口にものを突っ込んでめちゃくちゃに犯した。泣きじゃくろうが抵抗しようが、一般人の、しかも女のちからしか無い裕也を凌辱することはシカマルにはたやすかった。何度も何度も犯した。現実でできない分のストレスを全てぶつけた。

 己の隣で平和そうに雲を見ている裕也の、愛らしい顔を見る。
 汚れを知らぬ、純真無垢な顔。
 無防備に晒している、艶めかしい首筋、白い胸元。
 ――おれは、お前を、毎晩犯しているんだ。涼しい顔して、おれはそういうことを考えているんだぜ。
「…メンドクセー」
 湧き上がる罪悪感を押し殺すように、シカマルは眼を閉じた。

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