「 3 」

 死んだようにぐったりしていた裕也の手が、唐突に、イビキの太い腕を掴んだのだ。
 刹那、部屋を充満する、殺気。
 イビキの腕を掴む裕也の手に、ググググ…と力が入ってゆく。

 ――なんだ!?
 狼狽するイビキ。

 裕也の細い手が、筋肉質でがっしりしたイビキの腕にめり込んでゆく。溢れだす血。

 ただの力じゃない。一般人の、ただの人間が出す力ではない。筋肉組織がメリメリと破壊されてゆくのが分かった。振り払おうとしても、力が強過ぎて振り払えない。振り払うならこちらの腕を諦めて切り落とさなければならないレベルだ。

 どういうことだ!? これは、突然!
 全身から噴き出す汗。
 …これは、恐怖?
 そんな、ばかな、こんな一般人のガキに…


 その時。
 力なくもたげていた裕也の頭が、少し、動いた。

 前髪から、彼の双眸が覗いた。

 その眼は。

「なっ、貴様、何だその眼は?! まさか血継限界…!?」
 瞳孔が縦長に細くになり虹彩部分が赤色に変色。
 鮮血を思わせる深紅の瞳。元の優しげな栗色の瞳ではない。

「おっさん…、」血を這うような低い声。「そっか。おっさんも、そのクチだったんだね。うずまきを迫害する側の腐った大人だった。うずまきに何のためらいも無く肉切り包丁を振り下ろすクズたちと同じ人種だったんだね」
 そして、裕也は、少し力を入れたそぶりで、右腕を動かした。
 ブチブチブチ!
 イビキはまた驚きに眼を見開く。
 裕也を拘束していたピアノ線のような固い糸が、生々しい音を立てながら引きちぎられた。
 ――そんな、ばかな…
 これは、チャクラの練られた特殊な糸だ。切れることすら、まして引き千切られることなんて、絶対にあり得ない。(この糸は鋼糸といい、その強力さゆえ、暗部最強と謂われる狐空も任務で愛用している。)
「ねえ、おっさん。」左腕もブチブチ引き千切りながら、裕也はイビキに抑揚なく尋ねた。「うずまきにも、こうやって拷問したりしたの? これね、結構痛いんだよ。身体に鋭利で固い糸が食いこんでそこらじゅうが裂けるし、あんたに殴られると激痛で一瞬視界が真っ白になったし、その後もぐらぐらして気持ち悪いしさァ」
 そのまま、拘束されていた両脚も振り払い、彼は何事も無かったかのように、その場に立った。
 口内にたまった血を唾と一緒に吐き出す。
 眼はイビキを睨み上げたまま。

 その、鮮血色の瞳で、射抜くように。

「あんたもあの子を傷つける側の人間だと、おれは認識してもいいんだな?」

 答えによってはあんたの命終わるかもしんないけど。そん時はごめんね。


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