「 とある前の未来の話 」


 里を一望できる火影岩の上に、小さな人影が2つ。

「…別に。ただ、おれは、今までのツケを払ってもらっているだけだ。三代目亡き今、おれにとってこの里はゴミでしかない」

 眼下の里に目を向けたまま、無感動にそう言って、金色の髪の少年は、また里に新しい火を放った。
 さらに大きな悲鳴に包まれる。
 濃過ぎる血の臭いを孕む、生温かい風が、少年の金色の髪をさらい、その秀麗な顔立ちをあらわにしていた。
 彼のその、空虚で冷たい目も。

 少年がかつて守っていた、三代目火影の愛した里が、今は炎に包まれている。
 里が、燃えていた。
 里全体だ。
 余すことなく、すべてが燃えていた。
 消火しようと尽力し水遁の術でもって何とかしようとする忍もたくさんいたが、少年にかかれば無意味な抵抗だった。彼が少し指を動かせば、炎は大きくなり、人が百人単位で死んでいった。
 何の感情も見出すことができない目で、ただの作業のように、彼は里を破壊していた。里の生贄とされていた少年の顔は無表情だが、その心の内は、この里への憎悪で満たされている。

 …里の、終わりだった。

 一人の少年によって、里が死んでいく。


「…そうか、」長い黒髪を後ろできつく一纏めにした少年が返事した。「もう、どうにもならないんだな?」
「ああ、」里に目を向けたまま、金色の少年が言う。「おれは火影のじっちゃんを失うことを恐れていたと同時に、望んでいた。じっちゃんはおれを保護した唯一の大人だから失いたくない。でも、じっちゃんがいる限りこのゴミを処分できない…じっちゃんが悲しむ顔は見たくないからな」
 おれは、この日が来るのを、待ち望んでいたんだ。そう言って少年は手で空間をヒュンと裂いた。すると下界では凄まじい規模の地割れが起き、次々と人が呑み込まれていく。
 
「三代目は、天国で悲しんでるかもしれねぇぜ?」
「ハッ、」鼻で嗤い飛ばす。「お前は死後の世界なんて信じているのか? くだらねぇ。死んだら全部終わりなんだよ」

「そうか、そうだな。死んだら全部終わりだもんな…、おれも、…この里も。」

 黒髪の少年は考える。
 ――おれたちは、こいつに、背負わせ過ぎた。
 大きなコップに、水を注いでいって、まだ大丈夫、まだ大丈夫って安心しているうちに、一気に決壊した感じだ。
 勢いよく噴き出る水流が、炎が、里を押し流し、破壊させた。

「…おれは、諦めない」
 黒髪の少年は立ち上がった。「お前にとっては憎む里だろうが、おれにとっちゃあ大切な故郷なんだ、めんどくせぇことにな」
「あ、そ。興味ない。」感情のそぎ落とされた、恐ろしいほど冷たい声。「ウダウダうぜぇこと言ってゴミ処理付き合ってくれないんならお前も殺すけど?」
「いや、それはもう少し待ってくれ。ちょっとションベンしてくる」

 そう言って黒髪の少年は、森の奥に歩いて行った。

 ――里の消滅を何とかするには、ナルトを止めなければならない。でも、もうどうにもならないから、過去に遡って、どうにかするしかねぇな。

 以前、遠い過去に、父親の手伝いで入った火影室の禁書の本棚で読んだことのある内容を思い出した。(火影もまさか3歳の子どもが読めるはずがないと思い警戒していなかったのだ。)
 里の(大切な)柱がピンチのときに、異世界から人を呼んで、里を救うらしい。
 まるで夢物語のような内容が、短く漠然的な文で書かれていた。しかしどこか人を信じさせてしまうような、不思議な魅力があった。そう、たとえば宗教の聖書のような感じ。

 ――正直半信半疑だったが、仕方ない。もう、これしかない。

 焦げ臭い風が、木々の間を縫って吹き抜ける。

 ナルトに気付かれないうちに、素早く遂行しなければならない。

 優秀すぎる記憶力をもつ少年は、記憶通りに長い印を組む。
 空気が熱くなる。
 沸騰するように。

 異変に気付いたナルトが少年のもとへ来る音がする。

 少年は目を閉じる。
 ――間に合え!

「シカマル、何やってる…」
「開ッ!」

 どの最後の印の叫びとともに、周りの景色が歪んだ。
 木々がぐにゃりとまがってゆく。空間ごとねじられている。
 自分の身体も揺らいでゆく。

「なっ、これは、何が起きて…」

 狼狽するナルトの両肩を、シカマルは固くつかんだ。
 交錯する二つの視線。
 事態を掴めていない戸惑った眼と、
 強く意志を持った、光ある眼。

「過去で、また会おう、ナルト」

 その言葉を残し、2人を含む諸々のものは、霧散していった…

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