「 3 」

 目の前には、ラシュモア山の大統領像(参照画像)のパクリみたいなものが見える。

 ――なんだ、あれは。

 アメリカのサウスダコタ州にあるラシュモア山国立記念公園にある某建造物を彷彿とさせるようなモニュメントが見える。
 ラシュモア山に彫られているのは、アメリカ合衆国建国から150年間の歴史に名を残す四人の大統領(ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、セオドア・ルーズベルトとエイブラハム・リンカーン)であるから、
 きっと、おれの眼に映ってるあのパチモンにも、有名な大統領みたいなのが掘られているのだろうか?

 それらの像は、眼下に広がる里を見守っているようにも見える。
 強く、優しく。指導者や英雄のように。
 そう思い、裕也は眉をひそめた。
 ――なあ、あんたらは、あの子のことは守ってやれないのか?
 なんの事情があるのか知らないが、あの子はとても苦しんでいる。里から憎まれている。
 偉いなら、おれと違って強いのなら、あいつを守ってやってくれ…。

 その時。

 背後で、キィと、扉の開く音がした。
 続いて、足音。

 ――誰か、来た。
 
 足音の軽さからして、まだ子どもである。
 少年、だろうか? きっと、ここの生徒だろう。下は静かだし、まだ授業中なんじゃないのか? 授業中に抜け出して屋上でサボタージュか…。どこの世界にもいるんだな、そういう奴。

 すると、その足音は止み、続いて、気配が薄まった。きっと、本人は隠しているつもりなのだろう。彼の静かに近づいてくる音も聞こえる。
 ――甘いな。
 狐空の気配も気付けた裕也にとって、彼の気配の消し方は甘かった。
 忍者は皆がすごいと思っていたのだが、ナルトが特別だったのだろうか。ナルトとは全然違う。甘過ぎる。これじゃバレバレだ。彼がどんな体勢でいるのかや、息遣い、彼の攻撃の間合いまで分かる。ナルトはうっすらとこの辺にいるってくらいにしか分からなかったが。

 彼が近づいてくる。
 彼の間合いに入るまで、あと三歩、二歩、一歩。

 ――気分が治るまでここでじっとしていたかったけど、仕方ねぇな。
 捕まる方がダルそうだし。

 クルリ、と、彼の方へ振り向いた。
 裕也の眼に映ったのは、予想通り、少年。
 長い黒髪をすべてきつく後ろで縛っている。
 彼は細い目を見開き、裕也を凝視していた。

 本当は、声をかけたかった。
 やあ、こんにちは、少年。おれは内海裕也。あんたは名前はなんていうんだい? ところで、ここを案内してもらいたいんだけど、いいかな?
 こんな具合に。
 しかし、前述の通り、今、口を開いたら、吐く。

 ――仕方ねぇ。
 コミュニケーションはとれずとも、今後の円滑な関係のために、取り敢えず愛想笑いだけ残して、去ることにした。

 いまだに凝視してくる黒髪の少年に、ふわり、とほほ笑む。
 もしこれから会うことがあったら、案内よろしくな、少年。そんな按排で。

 その少年が顔を赤らめたことに気付かず、裕也は彼の隣をすり抜け、扉へ去って行った。
 室内は危ないから、取り敢えず校庭に行って風に当ろう。そう思って。


―――――
第7話でシカマル目線で書いた、屋上での二人の出会いです。
夢主が何も言わずふわりと微笑んで去ったのは、夢主が嘔吐をガマンしていたからでした。あわれシカマル\(^O^)/

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