「 序話 」


序話



 裕也が退出したのを見計らい、ナルト少年は目を開けた。

 暗い室内。裕也の寝室には、引っ越して来たばかりなので、ベッド以外何もない。カーテンすら無い。その剥き出しの窓の向こうには、ベランダ越しに空が見える。星一つ無い、暗闇の空。
 枕に頭を沈めたまま、夜の空を眺める。静かな夜だ。裕也の水道を使う音が遠く聞こえる。
 ――そろそろ来るはずだ。何もない夜なんてあるはずがない。
 すると予想通り、ベランダに鳥がとまった。窓ガラスを数回つつく。任務を知らせる、黒い鳥。背景の暗闇と溶け合う不吉な鳥。
 ナルトは布団の下で印を組み、音も立てずに影分身を出した。自由な方向に立てた金髪、澄んだ水色の瞳、両頬の3本の傷。身長も全く同じ。その自分と寸分違わぬ身代わりを、ベッドに寝かせる。
 窓を開けた。冷たい夜風が頬を撫でる。
 ベランダに出て、目を閉じた。気を集中させ、気配を探る。里を囲む塀の外、深い森の中の微かな気配。
 ――他国の暗部が、東に20、西に20。
 挟み撃ちでもするつもりなのだろうか。


「一人で充分だ」


 鳥に静かに伝える。「応援は要らない」
 そう言った刹那、少年はベランダから飛んだ。高く跳躍。その間に、青年の姿に変化する。髪を長く伸ばし、背丈を高くさせ、左肩に暗部の刻印を捺す。
 民家の屋根に足をついた彼は、『狐空』になっていた。闇の中光をはなつ金の髪が、夜風になびく。その秀麗な顔に、仮面を被せる。暗部が素顔をわられないために装着する、動物の顔を模した面。通称『暗部面』と呼ばれるそれは、狐空の場合、狐の面だった。
 背中で緩くしばった金の髪、狐の面。謎多き暗部総隊長、狐空。


「まずは東から片付けるか」


 そうボソリと言った言葉が終わらぬうちに、青年の姿は暗闇のなかに消えていた。


end

PageTop

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -